研究課題
IgG4関連疾患は、血清中のIgG4の高値とともに、諸臓器にIgG4陽性の形質細胞の浸潤を伴う炎症性疾患である。 IgG4関連疾患の代表的疾患は、自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)であるが、これらIgG4 関連疾患がもたらす発癌リスクについては殆ど検討がされていない。慢性胃炎や炎症性腸疾患など多くの炎症性疾患は発癌と関与しており、その原因はメチル化異常が関与している。そこでAIPの炎症細胞浸潤が、がん関連遺伝子のDNAのメチル化異常を誘発し、発癌に関与するという仮説を立て、病理学的、分子生物学的視点から以下の実験を行い検証した。1.特定した原因候補遺伝子のmRNA発現解析:昨年度までにアレイ解析などで特定した遺伝子のmRNA発現を解析するために高感度RNA in situ法であるRNAscopeを用いて解析を行った。RNAscopeは上原らが別の研究で報告を行っており環境は整っている。2.IgG4関連胆管炎症例の選択:AIPと同様にIgG4関連疾患の代表であるIgG4関連胆管炎でも原因候補遺伝子のメチル化異常があるか検証を行うために、信州大学医学部附属病院で手術が行われIgG4関連胆管炎と診断された症例をレトロスペクティブに検索して選択した。3.IgG4関連胆管炎での発癌関連遺伝子のメチル化レベル解析:選択されたIgG4関連胆管炎のパラフィンブロック組織のDNAをマイクロダイセクションで抽出し、その後抽出されたDNAにbisulfite処理を行い、正確なメチル化レベルを得るために定量的メチル化解析法である、定量Methylation Specific PCR(MSP)を用いて、メチル化レベルを解析した。
3: やや遅れている
昨年度までにアレイ解析などで特定した遺伝子のmRNA発現を解析するために高感度RNA in situ法であるRNAscopeを用いて解析を行った。RNAscopeは上原らが研究協力者であるコロンビア大学教授のAntonia R Sepulveda先生やYao Yuan先生、愛媛大学プロテオサイエンスセンターの増本純也教授からご助言いただき、プローブ設計など行った。条件設定で試行錯誤を行っておりまとまった結果は次年度となる。IgG4関連胆管炎症例の選択に関しては信州大学医学部附属病院で手術が行われ、IgG4関連胆管炎と診断されたた症例をレトロスペクティブに検索し、試料として用いることができた。また不足分に関しては近隣協力施設から、試料を提供の協力が得られ必要数を確保できた。またIgG4関連胆管炎の発癌関連遺伝子のメチル化レベルをメチル化定量法で計測する事に関しては、IgG4関連胆管炎の炎症部、対照として胆管癌の炎症部、原発性胆汁性胆管炎、正常胆管に対して、DNAをマイクロダイセクションで抽出し、その後抽出されたDNAにbisulfite処理を行い、定量的メチル化解析法である、定量Methylation Specific PCR(MSP)を用いて、原因候補遺伝子のメチル化レベルを解析した。RNA発現解析に若干遅れが生じているが解析のめどは立っており、挽回可能である。また当初予定していた疾患群に対しては検討が行えている。
これまでに同定された原因候補となる、がん関連遺伝子の蛋白発現の有無を、タンパクに対するモノクロナル抗体を用いて免疫染色で確認する。免疫染色はAIPの炎症部、膵臓癌の閉塞性膵炎部、正常膵、またはIgG4関連胆管炎や、それに対する対照群などに行う。原因候補遺伝子によって作られるタンパク質に対する抗原が免疫染色によって確認できればメチル化による影響を目視で確認可能となる。また膵臓導管上皮や腺房上皮の培養細胞を用いて、原因候補遺伝子の導入や抑制を行い、原因候補遺伝子の発現の有無が、増殖能力などに影響を及ぼすかどうかを検証する。
研究計画は順調であるが、実験方法の手法を変更し、コストが低下したことと、次年度に追加アレイ解析を先延ばしにした事による。次年度使用額はH31年度請求額と合わせて、新たな疾患群に対しての追加メチル化アレイ解析や、MSP法、RNA in situおよび培養細胞による遺伝子導入などによる追加検証に使用する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
Pathol Res Pract
巻: 214 ページ: 492-497
10.1016/j.prp.2018.03.005
肝・胆・膵
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