研究実績の概要 |
中皮腫は体腔を被う中皮細胞に由来する悪性腫瘍であるが、胸膜、腹膜、精巣鞘膜、心膜に発生する。最も多く発生する胸膜中皮腫については、その部位の特異性から、肺がんの胸膜進展、他のがんの転移、腹腔内のがんの胸膜進展等、多くの疾患を鑑別する必要がある。しかし、その鑑別が必ずしも容易でない例が少なからず存在する。実際我々は、日本の中皮腫症例を再検討した結果、約15%の例で診断が適切でなかったことを明らかにしてきた。 本研究は悪性中皮腫、特に上皮型中皮腫と肺がん(非小細胞性肺癌)について、パラフィン包埋材料からmRNAを抽出し、DNAマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現検索を行うことによって、両者を鑑別するために従来以上に有用な新規マーカーを明らかにして、中皮腫の正しい診断・治療への応用・実用化をはかることを目的とした。 上皮型中皮腫6例、肺腺癌6例のパラフィン包埋材料からmRNAを抽出後、精製してDNAマイクロアレーによる解析を行ったところ、426の蛋白をコードするmRNAで両者で有意な発現の差があった。このうち中皮腫では197の、肺腺癌では229の遺伝子産物が有意に高い発現を示した。 このうち、DAB1, intelectin-1, MUC4, Glypican-1に注目して免疫組織化学的染色を行うと、中皮腫ではDAB1(感度80%%、特異度97%), intelectin-1(感度76%、特異度100%), Glypican-1(感度100%、特異度97%)が、肺腺癌ではMUC4(感度100%、特異度83%)が従来頻用されてきたcalretinin, D2-40, WT-1などよりも高い感度と特異性を持つマーカーであることが明らかとなり、中皮腫の鑑別診断に応用が可能であることがわかった。
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