研究課題/領域番号 |
17K08746
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
村瀬 貴幸 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (40315875)
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研究分担者 |
稲垣 宏 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (30232507)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 蛍光 in situ hybridization / Sequential FICTION-WSI / 免疫染色 / IN-Cell Analyzer / 顕微鏡画像解析 / 染色体転座 / 多形腺腫 / 多発性骨髄腫 |
研究実績の概要 |
多形腺腫の各組織成分が腫瘍性か非腫瘍性かは不明であり、それらの腫瘍性を明らかにするため組織全体の細胞に対して腫瘍発生関連のPLAG1遺伝子転座の有無を我々の開発したsequential FICTION-WSI法で解析した(Virchows Arch 2016;469:575-580)。そして多形腺腫では多様な細胞でPLAG1遺伝子転座が形成され、腫瘍細胞が様々な形態に分化していることが細胞レベルで明らかとなった。以上を第106回日本病理学会総会にて「Sequential FICTION-WSI法を用いた多形腺腫細胞のclonality解析」の標題で発表した。 多発性骨髄腫と関連するt(4;14)やt(14;16)の転座が検出されることは臨床的に有用であるためパラフィン切片を用いた組織FISH法で前記転座が検出可能かを検討した。特に形質細胞数の少ない症例ではHE染色、CD138免疫染色、FISH法を連続して行うsequential FICTION法を用いた。そして多発性骨髄腫と関連するt(4;14)やt(14;16)の転座はパラフィン切片による組織FISH法で正確に検出することが可能と判明した。以上を第42回日本骨髄腫学会にて「t(4;14)とt(14;16)転座に対するパラフィン組織を用いた組織FISH法の有用性」の標題で発表した。 唾液腺intercalated duct lesionは稀な唾液腺病変であるが、腫瘍か過形成かが明らかとなっていない。よって次世代シーケンサーで遺伝子異常を解析したところ、病変と関連する遺伝子異常は検出されなかった。以上を第62回日本唾液腺学会にて「免疫染色により確定診断された唾液腺intercalated duct lesionの1例」の標題で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)Sequential FICTION-WSI法: HE染色・蛍光免疫染色・FISH法の組織全体の画像をコンピュータ上で重ね合わせ、形態・蛋白発現・遺伝子異常を細胞レベルで観察し、組織全体に亘る細胞解析を安定して試行することには概ね成功している。 (2)同一切片における蛍光免疫染色の複数回試行: 蛍光免疫染色は安定しているが、同一切片を用いたFISH法の複数回試行については解析可能回数に限界が生じているため実験プロトコールの見直しや改善を行っていく予定である。 (3)IN Cell AnalyzerやInvestigator (GE社)による蛍光免疫染色やFISH法の自動解析: 解析のみのソフトウェアの開発には目途が立ちつつあるが、自動解析ソフトウェアの開発には若干難渋している。DAPI蛍光の輝度差を利用して核を認識し、大きさ、真円率などのパラメーターから対象とする核(腫瘍細胞、非腫瘍細胞)を抽出することは成功している。また、指定した蛍光の輝度差を利用し、蛍光免疫染色における細胞質や核のシグナルを認識、核の蛍光の重なりを判定、対象とする核を持つ細胞の細胞質や核シグナルを判定することも目途がついている。一方で核シグナルを認識するにあたりシグナルが核内に存在するか認識し、各ドットのピクセルを最適化させ、2つのシグナルの重なりを調整させることに難渋している。以上から蛍光免疫染色画像とFISH画像とをコンピュータ上で重合し、蛍光免疫染色で検出した細胞にFISH法で検出した遺伝子異常が存在するかを解析する自動ソフトの開発には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
(1)複数回蛍光免疫染色・複数回FISH法について: 予備実験では良い感触を得ているが、複数回の回数が伸びない時は、多重染色の導入を検討する予定である。 (2)解析ソフトウェアの開発について: 概ね可能になってきているが、多数症例に適応できない場合においては症例毎にソフトウェアのアルゴリズムを最適化させ、解析速度を高めていく予定である。 (3)組織アレイ・スライドへの応用について: 蛍光免疫染色については満足のいく結果が得られているが、FISH法については組織間において最適性のばらつきが観察される。前記に対しては前処理プロトコルの最適化、複数回の前処理施行などで対応する。 (4)ホジキンリンパ腫およびその微小環境解析について: 使用抗体の選択、蛍光2次抗体の最適化、FISHプローブの再設計、多重プローブ化を行い、ホジキン細胞を正確に同定し、遺伝子・染色体異常の解析を行う予定である。具体的にはCD30陽性を示すホジキン細胞を蛍光染色で正確に同定し、それらの細胞におけるPD-L1遺伝子やIgH遺伝子の状態を解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)研究対象症例が予想以上に集塊できたため、それらの症例に対する遺伝子解析実験に充てられる物品費が増加し、(2)同一切片使用の組織FISH法の複数回試行実験に充てられる物品費も増加した。状況(1)(2)を解消するため次年度からは遺伝子解析実験や組織FISH法複数回試行実験の精度を向上させ、効率化を図る予定である。 必要物品としては1次抗体、最適化蛍光2次抗体、再設計FISHプローブ、多重プローブとそれらに伴うキット試薬が必要と考えられ、購入を予定している。具体的には現行の唾液腺腫瘍や多発性骨髄腫に関連する抗体・プローブ・関連試薬に加え、CD30陽性を示すホジキン細胞を正確に同定する抗体・関連試薬、それらの細胞におけるPD-L1遺伝子やIgH遺伝子の状態を解析するプローブ・関連試薬である。
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