研究課題
第43回日本骨髄腫学会で多発性骨髄腫(MM)におけるCCND1、MMSET、MAF遺伝子再構成に関し発表した。MMのIGH-CCND1、IGH-FGFR3、IGH-MAF遺伝子再構成検出にFFPE組織の利用は臨床的に有用である。FFPE組織FISH法で遺伝子再構成が同定でき、FFPE切片の免疫染色(IHC)で遺伝子再構成が検出できるかを確認した。[1]目的のIHCを施行し、cut off値を決定した。CCND1、FGFR3、MAFのIHCのcut off値、感度は各々5%、100%、100%;10%、95.0%、96.0%;10%、90.0%、98.3%であった。[2]遺伝子変異未検索MM例のFFPE組織で目的のIHCを実施し、各々の遺伝子再構成に対する組織FISH法を行った。IHCの感度、特異度はCCND1で100%、97.5%、FGFR3で90.9%、98.9%、MAFで100%、100%であった。以上からFFPE組織FISH法で遺伝子再構成は良好に同定でき、IHCも有用であった。第107回日本病理学会でETV6-RET融合遺伝子陽性唾液腺分泌癌例に関し発表した。分泌癌ではETV6遺伝子はNTRK3遺伝子と、一部症例ではNTRK3以外の遺伝子と転座を形成する。我々はETV6-NTRK3融合遺伝子陰性分泌癌症例でETV6-RET融合遺伝子をFFPE標本RT-PCR法で同定した。第58回日本リンパ網内系学会でMAFB遺伝子再構成陽性多発性骨髄腫例に関し発表した。IGH-MAFB遺伝子再構成骨髄腫例は化学療法で完全寛解したが、脳生検で再発が確認されたため全脳照射と化学療法を追加したが、死亡となった。脳生検の腫瘍染色体分析とFFPE組織FISH法でMAFB遺伝子分離が、IHCでMAFB発現が認められ、MAFB遺伝子再構成陽性骨髄腫では組織FISH法と免疫染色が有用であった。
2: おおむね順調に進展している
(1)Sequential FICTION-WSI法: HE染色・蛍光免疫染色・FISH法の組織全体画像をコンピュータ上で重ね合わせ、形態・蛋白発現・遺伝子異常を細胞レベルで観察し、組織全体に亘る細胞解析を安定して試行することには専用ソフトウェア実用化に成功している。(2)同一切片における蛍光免疫染色の複数回試行: 蛍光免疫染色は安定しているが、同一切片を用いたFISH法の複数回試行については解析可能回数に限界が生じているため実験プロトコールの見直しや改善を行うことにより解析可能回数の増加を図る予定である。(3)IN Cell AnalyzerやInvestigator (GE社)による蛍光免疫染色やFISH法の自動解析: 解析ソフトウェアは実用化しているが、自動解析ソフトウェアの実用化には制限が生じている。DAPI蛍光の輝度差を利用して核を認識し、その大きさと真円率などのパラメーターから対象とする核(腫瘍細胞、非腫瘍細胞)を選別することは成功している。また、指定した蛍光の輝度差を利用し、蛍光免疫染色における細胞質や核のシグナルを識別、核の蛍光の重なりを判定、対象とする核を持つ細胞の細胞質や核シグナルを判定することも概ね成功している。しかしながら、核シグナルの識別に際し、シグナルが核内に存在するかの認識、各ドットのピクセルの最適化、2つのシグナルの重なりの認識の調整に取り組んでいる最中である。以上から蛍光免疫染色画像とFISH画像とをコンピュータ上で重合し、蛍光免疫染色で検出した細胞にFISH法で検出した遺伝子異常が存在するかを解析する自動ソフトウェアの開発に成功しつつあるが、改善が必要な段階である。
(1)複数回蛍光免疫染色・複数回FISH法について: 病理標本の固定状態にも左右されるが、3回はFISHシグナル検出可能な状況である。但し、4回以上に関してはFISHシグナルが安定しないため、多重染色の導入を検討する予定である。(2)解析ソフトウェアの開発について: 症例毎に設定の微調整を行えばFISHシグナルの解析は可能である。しかしながら、多数症例をバッチ処理対応できない場合においては症例毎にソフトウェアのアルゴリズムを最適化させ、解析速度を高めていく予定である。(3)組織アレイ・スライドへの応用について: 蛍光免疫染色については満足のいく結果が得られているが、FISH法については組織間において最適性のばらつきが観察される。前記に対しては前処理プロトコルの最適化、複数回の前処理施行などで対応する。(4)ホジキンリンパ腫およびその微小環境解析について: 使用抗体の選択、蛍光2次抗体の最適化、FISHプローブの再設計、多重プローブ化を行い、ホジキン細胞を正確に同定し、遺伝子・染色体異常の解析を行う予定である。具体的にはCD30陽性を示すホジキン細胞を蛍光染色で正確に同定し、それらの細胞におけるPD-L1遺伝子やIgH遺伝子の状態を解析する予定である。
(1)研究対象症例が予想以上に集塊でき、それらの症例に対する遺伝子解析実験に充てられる物品費が増加した。(2)同一切片使用の組織FISH法の複数回試行実験に充てられる物品費も増加した。状況(1)(2)を解消するため次年度からは遺伝子解析実験や組織FISH法複数回試行実験の精度を向上させ、効率化を図る予定である。必要物品としては1次抗体、最適化蛍光2次抗体、再設計FISHプローブ、多重プローブとそれらに伴うキット試薬が必要と考えられ、購入を予定している。具体的には現行の唾液腺腫瘍、造血器腫瘍、縦隔腫瘍に関連する抗体・プローブ・関連試薬に加え、CD30陽性を示すホジキン細胞を正確に同定する抗体・関連試薬、それらの細胞におけるPD-L1遺伝子やIgH遺伝子の状態を解析するプローブ・関連試薬である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
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