研究課題/領域番号 |
17K08768
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
及川 恒輔 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (70348803)
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研究分担者 |
村垣 泰光 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (40190904)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | TLS-CHOP / 腫瘍関連メカニズム / 粘液型脂肪肉腫 |
研究実績の概要 |
本研究は、粘液型脂肪肉腫特異的キメラがんタンパクTLS-CHOPによる多段階の腫瘍関連メカニズムの解明を行い、その知見をもとに臨床応用につながる基礎研究を展開するものである。 1. TLS-CHOP の新規下流分子群の同定と機能解析、及び他の分子との機能的相互作用の検討 これまでの研究により、TLS-CHOPがDOL54の予定外の高発現を誘導し、それががん抑制遺伝子MDA-7の転写を抑制することが、粘液型脂肪肉腫細胞の増殖維持に重要な役割を果たしていることが判明したが(Oikawa et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2017)、本研究により、やはりTLS-CHOPの下流分子であると想定されていたPAI-1もMDA-7を抑制する可能性が示された。しかも、PAI-1は転写ではなく、MDA-7タンパクの発現または機能を抑制している可能性が浮上した。従って、2つの異なる分子機構によるMDA-7の強力な機能抑制が腫瘍維持に重要と考えられ、これらの分子経路に関わる分子群は治療の新規標的分子として有用と想定される。現在、その詳細を確認・検討している。 2. TLS に結合する機能性RNAの機能発現の変化と腫瘍機能との関わりの検討 TLS はRNA 結合タンパクであるため、TLS-CHOP の存在が、TLS と結合するRNA の機能に影響を与え、それが腫瘍化や腫瘍増殖などに寄与している可能性が高い。本研究では、粘液型脂肪肉腫由来の培養細胞を用い、特異的siRNAによりTLS-CHOPをノックダウンした細胞とコントロールの細胞からRNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いてRNA-seq analysisを行なった。現在、その解析結果を精査し、発現量の差が大きいmRNA群、lncRNA群について、さらに詳細な検討を進める分子の選定を行なっている所である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目1の「TLS-CHOP の新規下流分子群の同定と機能解析、及び他の分子との機能的相互作用の検討」に関しては、現在特に、液型脂肪肉腫細胞の増殖維持のために極めて重要ながん抑制性タンパクMDA-7の機能抑制について、そのメカニズムの解明が進展してきており、論文になっていない現時点では詳細を開示しないが、そこで働く分子経路の輪郭が見えてきた。今後、この部分にさらに優先的に注力してデータを確定していくことでその全容の解明に近づくと期待される。 また、研究項目2の「TLS に結合する機能性RNAの機能発現の変化と腫瘍機能との関わりの検討」に関しては、粘液型脂肪肉腫由来の培養細胞において、TLS-CHOPをノックダウンした細胞とそのコントロール細胞から抽出したRNAに対して次世代シークエンサーを用いたRNA-seq analysisを行なった。現在その解析から得られた結果について精力的に検討しているところであり、順調に進展していると考える。 さらに、本研究申請の際にはあまり重視していなかったものとして、粘液型脂肪肉腫の脂肪分化を誘導する分子標的の検討を始めた。これについては、まだはっきりしたデータは得られていないが、近年の新規抗癌剤ET-743 (trabectedin)が粘液型脂肪肉腫の脂肪分化を誘導するという報告や、また、本研究に関連したTLS-CHOPのノックダウンが粘液型脂肪肉腫細胞の脂肪分化経路を促進する(Oikawa et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2017) というデータなどの状況から、今後充分に進展が期待される課題である。 以上の状況から、おおむね順調に進展している、と考える。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には前年度の研究項目を継続してそれらの完成を目指す。 より具体的には、まず、研究項目1の「TLS-CHOP の新規下流分子群の同定と機能解析、及び他の分子との機能的相互作用の検討」では、これまでの研究により粘液型脂肪肉腫細胞においてがん抑制性タンパクMDA-7の機能を抑制する複数の分子機構の輪郭が見え始めてきたため、当面はこの全容の解明に注力する。 次に、「2. TLS に結合する機能性RNAの機能発現の変化と腫瘍機能との関わりの検討」については、次世代シークエンサーによるRNA-seqの解析結果から、さらに腫瘍関連メカニズムに関与する新規の機能性RNA群の同定と機能解析を進める。尚、この検討が充分に進展した場合や、反対にめぼしい新規機能性RNAの同定ができなかった場合、RIP-seq/CLIP-seqによる検討を新たに開始する。これは、RNA-seqと比べて技術的にも煩雑さや困難さが伴うが、もし成功すれば、TLS-CHOPがTLS 結合性RNA の機能発現に与える影響をより直接的に推定することができる。 さらに、本研究課題申請時の具体的な研究計画に含めていなかったが、粘液型脂肪肉腫の治療法として脂肪分化を誘導するという発想が昔からある。実際、新規抗癌剤ET-743 (trabectedin)は、作用機序の詳細は不明ながら、TLS-CHOP の機能を阻害し脂肪分化を誘導する。また近年、脂肪分化制御に関与する分子の新規同定にも進展がある。さらに、本研究と関連して、TLS-CHOPのノックダウンも粘液型脂肪肉腫細胞の脂肪分化経路を刺激することが示唆された(Oikawa et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2017)。従って、粘液型脂肪肉腫細胞の脂肪分化を効率的に進行させるような新規標的分子の同定にも挑戦していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(当該助成金が生じた状況) 当該助成金が生じた最大の理由は、当初50万円かかると見積もっていた次世代シークエンサーを用いた解析が、結局受託解析に出したにもかかわらず、30万円程度の額に抑えられたのが大きい。それに加えて、解析結果の納品が遅れたため、その結果に基づいて立てる実験計画で用いる試薬類の購入額が少なかったためである。 (使用計画) 上記の状況から、研究計画に大きな変更が生じた訳ではないが、30年度は当該助成金と30年度の当初の予定額を併せ、より精密な研究結果を得るのに有用な試薬やキット類等を購入し、精力的にかつスピードアップして研究を遂行していく。
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