本研究は、粘液型脂肪肉腫特異的キメラがんタンパクTLS-CHOPによる多段階の腫瘍関連メカニズムの解明を行い、その知見をもとに臨床応用につながる基礎研究を展開するものである。 1. TLS-CHOP の新規下流分子群の同定と機能解析、及び他の分子との機能的相互作用の検討 TLS-CHOPによる抗腫瘍性サイトカインMDA-7の抑制機構において、DOL54を介したMDA-7 mRNAの発現抑制に加え、PAI-1を介したユビキチン-プロテアソーム系によるMDA-7タンパクの分解が重要であることが示唆された(投稿準備中)。また、粘液型脂肪肉腫由来培養細胞においてTLS-CHOPをノックダウンしたものとコントロールとの全RNA発現状況の差を、次世代シークエンサーを用いたRNA-seqにより網羅的に解析した。その結果、protein-coding RNAにおいては、TLS-CHOPに最も顕著に誘導されたmRNAが、様々な腫瘍において腫瘍関連機能が報告されている転写因子SOX11をコードしていたため、この分子に着目した。現在、さらに次世代シークエンサーを用いて、粘液型脂肪肉腫におけるSOX11の下流で腫瘍関連機能を担う分子群の検索を行なっている。 2. TLS に結合する機能性RNAの機能発現の変化と腫瘍機能との関わりの検討 上記のRNA-seqの結果においてlong non-coding RNA (lncRNA)にも着目して検討を進めている。しかし、lncRNAはまだ機能未知のものが多いため、具体的な機能発現との関連の解明には、まだ時間がかかる見込みである。 また、研究の進行過程から新たに浮上したテーマとして、粘液型脂肪肉腫の脂肪分化誘導による治療を視野に入れた分子標的を検討したところ、脂肪前駆細胞の脂肪分化との関わりが報告されていたMKL1をその有望な候補として見出した(投稿中)。
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