研究課題/領域番号 |
17K08773
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
山崎 吉之 日本医科大学, 医学部, 助教 (90407685)
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研究分担者 |
宮川 世志幸 日本医科大学, 医学部, 講師 (90415604)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 間葉系幹細胞 / がん関連線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
本研究で開発を試みる誘導型ベクター産生間葉系幹細胞(iVP-MSC)システムは、腫瘍組織に集積したMSCが、がん関連線維芽細胞(CAF)に分化するタイミングに合わせて治療用のベクターを産生することにより、従来のベクター産生MSCよりも高い精度で腫瘍病巣を標的化しようとするものである。 当初の研究実施計画では、初年度は1) iVP-MSCベクター産生誘導に最適なCAFシグナルを同定し、2) iVP-MSCシステムを確立することを予定していた。 1)については、CAFの代表的なマーカーとして知られるαSMAの転写制御領域を利用できるか確認するために、αSMAプロモーター領域のうち転写開始点より1 kbpほど上流までをヒトゲノムからPCRにてクローニングし、その下流にレポーター遺伝子AcGFPを連結してレポーターアッセイ用の発現カセットを構築した。この発現カセットをレンチウイルスを用いて骨髄由来MSCに導入したところ、TGFβが誘導するαSMAの発現増大に伴ってAcGFPが発現することを蛍光顕微鏡観察および免疫染色法により確認した。 2)については、iVP-MSCの供給源とするため、MSCへの分化誘導が可能であることが知られるヒトiPS細胞株(409B2株)を理化学研究所から供与を受け、いくつかの既報の方法によるiPS細胞からMSCへの分化誘導を試みたところ、iPS細胞から神経堤細胞(NCC)への分化を経由してMSCへの分化誘導を促す手法が本研究において最も効率的であるとの結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請計画では平成29年度中に1) VP-MSCベクター産生誘導に最適なCAFシグナルを同定し、2) iVP-MSCシステムを確立することを予定していた。 1) については、申請計画では複数のCAF分化シグナルの転写制御領域をレポータータンパク質と組み合わせてレンチウイルスに搭載しヒトiPS細胞に導入する予定であった。しかし、まずCAF分化シグナルの第一候補であったαSMAに関して市販のレポーターアッセイ用発現カセットの転写制御領域の利用を試みたところ、想定に反してレポータータンパク質の発現が弱かったため、独自に、効率的にレポータータンパク質を発現させるための転写制御領域の検討を重ねた。 また、2)については、申請計画では1)で同定したCAF分化シグナルの下流にアデノ随伴ウイルス(AAV)の構成因子を連結した発現カセットをiPS細胞に導入し、MSCへの分化を経由して、最終的にCAFに分化した際にAAVを産生するiVP-MSCシステムが確立できるか確認する予定であった。しかし、iPS細胞からMSCへの分化誘導法を複数試みたところ、既報の誘導法の多くは非効率的であったため、現在採用しているNCCを経由した分化誘導法に辿り着くまで探索に時間がかかった。
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今後の研究の推進方策 |
iVP-MSCシステムの開発のためには、ベクター産生開始のスイッチとして使用できるCAF分化シグナルの同定が必要不可欠である。初年度の研究では、代表的なCAFマーカーであるαSMAの転写領域を使用したレポーターアッセイ用発現カセットを骨髄由来MSCに導入し、MSCからCAFへの分化誘導因子として良く知られるTGFβを培地へ添加したところ、αSMAの発現増加に伴いレポータータンパク質(AcGFP)の発現が増大することを蛍光顕微鏡観察および免疫染色法によって確認した。従って、αSMA転写領域はiVP-MSCシステムの開発のために利用可能であると考える。 そこで今後の計画としては、レンチウイルスを用いてiPS細胞に上記の発現カセット、もしくは、AcGFPに代わりAAV構成因子を連結した発現カセットを導入し、MSCへの分化誘導を経由して最終的にCAFへと分化したときに、AcGFPもしくはAAV構成因子が発現するかの確認、ならびに、機能的な(即ち、殺腫瘍効果を有する)AAVが産生されるかの検討が中心となる。 iPS細胞からMSCへの分化誘導法に関しては前述の通りNCCを経由する手法を現在検討中であるが、MSCからCAFへの分化誘導法についてはTGFβの添加という既知の手法により(少なくともin vitroにおいては)現時点で問題なく可能であると考える。従ってNCCを経由するMSC分化誘導法を速やかに確立し、初年度に実施できなかった他のCAF分化シグナル(podoplanin, palladinなど)による転写制御の検討と併せ、安定してAAV構成因子を発現するiVP-MSCシステムの構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、初年度の研究実績は申請計画よりもやや遅れており、予定していた一部の実験(具体的には、αSMA以外のCAFマーカーの転写制御領域を用いたレポーターアッセイ、iVP-MSCが産生するAAV構成因子に対する検出実験)が実施できなかったため、29年度の研究費に未使用額が生じた。研究計画全体には変更がないので、これらの実験は30年度に改めて実施し、当初予定通りの計画を進めていく。
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