本研究では、腫瘍組織に集積した間葉系幹細胞(MSC)ががん関連線維芽細胞(CAF)に分化するタイミングに合わせて治療用のベクターを産生することで、高い精度で腫瘍病巣を標的化できる「誘導型ベクター産生間葉系幹細胞(iVP-MSC)システム」の開発を試みた。 我々は昨年度までに、正常なMSCでは治療用アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの産生能は低く抑制されているということを明らかにした。そこで本年度では、MSCをCAFへと分化させることでこの抑制が緩和されるかを検証した。MSCを培地中へのTGFβ添加によりCAFへと分化誘導させ、この細胞に対して昨年度に決定した最適刺激条件を用いてエレクトロポレーション法を実施し、AAVベクター作製用プラスミドを導入した。遺伝子導入から6日後に培養上清を回収し、培地中のAAVベクター力価(ゲノムコピー)を定量PCR法にて測定した。その結果、分化誘導されたCAFにおいても、AAVベクターの産生能は低く抑制されていることが分かった。この結果が実際に生体内に存在するCAFについても当てはまるか検証するために、前立腺がん由来のCAFを入手して同様の実験を行い、生体内のCAFにおいてもAAV産生能が抑制されていることを確認した。そこで本研究ではCAFあるいはMSCにおけるAAVベクター産生能を向上させることを目的として、既存のAAV産生細胞として知られるHEK293細胞に倣い、MSCに対してアデノウイルス遺伝子断片を導入することを計画した。我々は、既に他の研究成果から、MSCのような幹細胞でもウイルス因子を導入することで有意なAAV産生能が発現することを確認している。このことを本研究で応用するために、ウイルス因子をコードする遺伝子をトランスポゾン配列に連結したプラスミドを設計し、その作製を完了した。
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