研究課題/領域番号 |
17K08774
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
清川 悦子 金沢医科大学, 医学部, 教授 (80300929)
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研究分担者 |
湊 宏 金沢医科大学, 医学部, 教授 (10293367) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 浸潤 / がん / 転移 |
研究実績の概要 |
大腸癌の先進部における少数の細胞塊(簇出あるいは低分化癌胞巣)がリンパ管浸潤や肺転移と相関するというこれまでの報告に注目して申請者が立てた仮説、「癌先進部の細胞塊は栄養要求性が低く、細胞分裂をせずに集団細胞移動し、リンパ管に到達する」を証明することを目的とした研究である。 まず、栄養要求性が低いがん細胞を取得するために、培地交換なしに数日培養して生き残ったマウスおよびヒト由来大腸癌細胞株を複数株取得した。そのうち、マウス由来のCMT-93細胞を同系マウスの脾臓に移植し1週間後に肝臓への転移を見たが転移巣を形成していなかった。肝臓の組織切片では幾つかの門脈本幹の周囲にリンパ球集簇をみることから、がん細胞は血流内で生き残って門脈内皮に接着し肝実質に侵入しようと試みたが、免疫細胞によって肝実質への浸潤が阻害された可能性が示唆された。またこの時、マウスの肺にも転移像は見られなかった。CMT-93細胞は大腸癌由来細胞であるが、そのゲノム変異は未だ明らかにされていない。そこで、大腸癌の半数で変異が知られている癌遺伝子K-Rasの活性化変異体を発現させてみたところ、脾臓に移植した場合肝臓への転移をするようになり、また皮下に移植したところ、腺管や細胞塊を形成しつつ増殖するようになった。現在のところ、この転移あるいは皮膚への定着細胞群から栄養要求性の低い細胞を選択している。 ヒト大腸癌病理検体からから大腸癌の先進部における少数の細胞塊を持つ症例211例を抽出し、各種抗体による免疫染色の条件を検討した。そのなかの1例で細胞塊が目立つ症例において、50枚ほどの連続切片を作製し、HE染色を行い、簇出・低分化癌胞巣の3次元組織像を構築した。簇出は原発巣と連続しているというこれまでの報告があるが、我々の標本では原発巣とは連続していなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
リンパ節転移をすると報告のある細胞株でも移植しただけではリンパ節転移をすることがなかったため、癌遺伝子を導入する必要があったため。
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今後の研究の推進方策 |
活性化型K-Rasを発現するCMT-93細胞から栄養要求性の低い細胞を選択し、盲腸(原発部位)、皮下、脾臓、心腔(あるいは尾静脈)に移植し、生体内での転移能を親株と比較する。よく生存・転移する場合は、皮下あるいは腸管で2光子イメージングによりその動態を観察する。 低分化のマウス由来の大腸癌細胞株Colon26では、栄養要求性の低い細胞では接着斑に局在するPaxillinやTalinの発現、サイトカインの一種であるインターロイキン6、免疫チェックポイントに重要なPD-L1の発現が上昇していたので、これらの蛋白質群の発現を、栄養要求性の低い活性化K-Ras発現CMT-93においても調べ、異なる細胞株において栄養要求性と蛋白質発現が同様であるか検討する。またマイクロアレイを用いるなど遺伝子群の発現の違いを検討し、栄養要求性や転移能を制御する分子群を同定する。更に、試験管内で3次元培養しライブイメージングをすることにより細胞そのものの動態や形態を観察する。また蛍光蛋白質から成るバイオセンサーを発現させ、細胞内の信号伝達を可視化し、どのような変化が起きているか検討する。 ヒト材料においては、透明化した場合の上皮細胞・リンパ管を可視化できる抗体を検討し、3次元構築像を取得する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室予算にて既に購入して余剰にあった・プラスチック製品・試薬などを用いて研究が遂行できたため。次年度に繰り越して、旅費や消耗品・研究機器購入に充てる。
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