研究課題/領域番号 |
17K08792
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
鈴木 章一 帝京大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (40253695)
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研究分担者 |
菅又 龍一 帝京大学, 公私立大学の部局等, 講師 (70595917)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ペルオキシダーゼ / ヒポチオシアン酸 / IRF3 / 抗ウイルス応答 |
研究実績の概要 |
ヒポチオシアン酸はラクトペルオキシダーゼやミエロペルオキシダーゼのようなヘム型ペルオキシダーゼによって産生されるオキシダントである。昨年度の研究により、インフルエンザウイルス感染時に生じる抗ウイルス応答をヒポチオシアン酸が抑制することが示唆されていた。今年度はこの可能性のさらに調べ、分子メカニズムを解明することを目的として研究を行った。RNAウイルスの疑似RNAであるpoly I:Cで細胞を刺激すると、抗ウイルス応答であるアポトーシス誘導やインターフェロンβの発現誘導が観察された。これらの現象は、poly I:Cで細胞を刺激した後、ヒポチオシアン酸処理を2時間行うと顕著に抑制された。ヒポチオシアン酸は、インターフェロンβのみならず、インターフェロンλやRANTES、IP-10等、他の抗ウイルス応答遺伝子も顕著に抑制した。これらの結果からヒポチオシアン酸は抗ウイルス応答を抑制する作用があることが明らかとなった。この分子機構を明らかにするために、抗ウイルス応答のマスター制御因子であるIRF3の活性化に対するヒポチオシアン酸の作用を解析した。IRF3のダイマー形成とダイマー形成に必須な386と396番目のアミノ酸のリン酸化をIRF3の活性化の指標として調べたところ、ヒポチオシアン酸はpoly I:Cによるダイマー形成およびIRF3のリン酸化を抑制することが明らかとなった。次に、IRF3のリン酸化酵素であるTBK1に対するヒポチオシアン酸の作用を調べた。TBK1はpoly I:C刺激でリン酸化されたが、これはヒポチオシアン酸処理により抑制された。この結果より、ヒポチオシアン酸はTBK1を介して、IRF3の活性化を抑制し、抗ウイルス応答を負に調節するオキシダントであることが明らかとなり、ヒポチオシアン酸がウイルス感染による肺炎の病態を増悪する可能性が強く示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画には、インフルエンザウイルスによる肺炎マウスを用いたペルオキシダーゼ阻害剤の効果について調べる実験内容(in vivo実験)が記載されているが、in vitroの実験結果が計画より順調に進んでいるため、in vitroの実験を中心にヒポチオシアン酸の作用解析を進めている。このためにin vivoの実験が遅れているので、全体としてややおくれているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ウイルス感染に伴い引き起こされる宿主細胞のアポトーシスをヒポチオシアン酸がどのように抑制するのか、この分子機構を解明する実験を中心的に行う。ウイルス感染細胞のアポトーシス誘導の機構にはIRF3非依存的機構も十分考えられるので、先ずは、本実験で誘導されたアポトーシスがIRF3依存的か非依存的かをsiRNAなどを用いて明らかにする。IRF3依存的である場合、IRF3と相互作用する細胞質因子を探しだし、ヒポチオシアン酸が、この相互作用に影響を及ぼすか否かを調べる。IRF3非依存的である場合、先ずはヒポチオシアン酸のセンサーとなり得る因子に着目し、アポトーシス誘導のキーとなる因子を探し出す。このようにしてウイルス感染に伴い引き起こされる宿主細胞のアポトーシスをヒポチオシアン酸が抑制する機構を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
in vtroの実験を中心に進めており、動物実験が進んでいないため、この実験に使用予定であった費用を次年度に繰り越したことが主な理由である。今後行う予定である感染マウスを用いた実験にその分の費用を充てる予定である。
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