研究課題/領域番号 |
17K08794
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
伊東 史子 東京薬科大学, 生命科学部, 准教授 (70502582)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | TGF-β / BMP / 血管新生 / 血管退縮 |
研究実績の概要 |
TGF-βファミリーは、細胞の増殖や分化などの生命現象を制御しており、シグナルの異常はがんや難治性疾患などの原因となることが知られている。本研究では血管内皮細胞の恒常性制御に関するTGF-βファミリーシグナルの役割解明を目指して、TGF-βファミリーすべてに必須の分子・Smad4、またはBMPシグナルを伝達するSmad1およびSmad5の遺伝子を内皮細胞特異的に欠損させるマウスを作成し、その影響について検証した。Smad4遺伝子をVE-カドヘリンプロモーター依存的に欠損させると、欠損から3週間以内に死亡したが、BMPシグナルを欠損した場合にはそれよりも早期に死亡することが明らかとなった。この結果は、血管内皮細胞ではTGF-βシグナルよりもBMPシグナルが重要であること、TGF-βシグナルとBMPシグナルの協調または拮抗作用が血管・リンパ管内皮細胞の恒常性維持にかかわっていることを示唆した。 これらのマウスを利用して腫瘍血管内皮細胞の解析を行う予定であったが、遺伝子欠損により早期に死亡するため担癌マウスの作製が困難であった。そこで、血行性転移しやすい細胞株を作製し、血管内への浸潤能が9倍高くなった細胞株を作製することができた。これらの細胞ではBMPに対する感受性は変化なかったがTGF-βシグナルへの応答性が増加していることが分かった。これらの細胞のゲノムワイド解析を行ったところ、転移に関与すると予測される分子を複数同定することができた。また低酸素環境においてTGF-βシグナルを増強する分子を見出しており、この分子がSmadの安定化に関与することを現在論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
内皮細胞特異的にTGF-βファミリーシグナルを欠損した場合とBMPシグナルのみを欠損させた場合の違いを明らかにすることができた。この違いは生存に関与しており、TGF-βファミリーによるリンパ管・血管内皮細胞の違いは非常に興味深いテーマとなっている。 また利用している遺伝子改変マウスは遺伝子欠損を誘導すると早期に致死となってしまうため当初予定していた腫瘍転移に関与する血管内皮細胞の役割を解析することができなかった。そこで方向性を変えて腫瘍細胞の解析から血行性転移を促進する因子の探索を行ったところ、血行性転移にかかわる分子を多数同定できた。今後これら因子の分子メカニズムを解析し、腫瘍転移の分子メカニズムの詳細を明らかにすれば血行性転移を抑制する治療法の開発につながると期待される。 さらに、低酸素環境において発現が促進されTGF-βシグナルを増強する分子を同定することができた(論文投稿中)
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今後の研究の推進方策 |
血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞を分取し、血管の恒常性維持に関与する分子メカニズムを同定する。さらに、低酸素環境において誘導されてTGF-βシグナルを増強する分子を明らかにすることができたため(論文投稿中)、この分子によるTGF-βシグナルの制御機構を明らかにすることで、虚血部位におけるTGF-βシグナルの役割解明につなげていく。この分子はTGF-bシグナルの細胞内シグナル伝達分子Smadの安定化に関与しており、この分子の酵素活性を阻害する分子を探索することにより、TGF-βシグナルの亢進が原因となる疾患への応用が期待される。そこでこの分子の阻害薬の探索を行う。 BMPシグナルとTGF-βシグナルの血管・リンパ管制御機構の違いを見出している。シグナル系の詳細な標的分子の探索を行うことにより、血管・リンパ管内皮細胞の恒常性維持機構の分子メカニズムの解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在論文投稿中のため、論文投稿費用を今年度使用する予定である。
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