研究課題/領域番号 |
17K08796
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
上岡 裕治 関西医科大学, 医学部, 講師 (50511424)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞接着 / イメージング / COPD / Rap1 / 免疫 |
研究実績の概要 |
慢性炎症時に新生される三次リンパ組織(TLO)を介して、リンパ球が炎症組織へリクルートされる分子メカニズムは未だ明らかにされていない。本研究では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)で見られるTLOの一種「iBALT」をマウスモデルで再現し、低分子量Gタンパク質Rap1が制御する細胞接着シグナルがiBALTへのリンパ球のリクルーティングをどのように制御しているのかを明らかにするため、以下の課題に取り組んでいる。 1.生理的な条件下(SLO)でのHEVと、慢性炎症によって誘導されるiBALTでのHEV類似血管ではリンパ球の細胞接着、血管外遊走がどのように違うのか? 2.iBALTやその近傍に存在する免疫担当細胞が炎症過程のいつ頃、どのようにリクルートされるのか?また、それらのリクルート過程で細胞接着制御因子Rap1による関与はあるのか? 3.免疫反応の場としてTLO内のどこで、どのような細胞間相互作用が起こっているのか? 当該年度においては、生理的な条件下でのHEV(膝窩リンパ節HEV)におけるT細胞のrollingおよびarrest現象を二光子励起顕微鏡または共焦点顕微鏡で観察し、Rap1ノックアウトT細胞、Kindlin-3ノックアウトT細胞、Talin-1ノックアウトT細胞でのHEVへのリクルーティングが低下することを確認した。また、in vitro でのflow chamber実験系において、固相化ICAM-1、VCAM-1、MAdCAM-1へのRap1ノックアウトT細胞、Kindlin-3ノックアウトT細胞およびTalin-1ノックアウトT細胞の違いを明らかにし、日本免疫学会にて学会報告を行った。Rap1シグナルの詳細を解明するため、Rap1活性化因子(GEF)および不活性化因子(GAP)をT細胞特異的に欠損する遺伝子組換えマウスの作出とそれらの解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
生理的な条件下でのHEVへのリンパ球リクルーティングではCD34 を含むPNAd―L-selectinの相互作用、またはICAM-1―LFA-1との相互作用が重要である。一方、炎症時ではVCAM-1やMAdCAM-1の発現が上昇し、活性化リンパ球のリクルーティングを亢進することが知られている。前年度までに調整した糖鎖修飾型CD34、P-selectinに加え、糖鎖修飾MAdCAM-1, VCAM-1のFcキメラタンパク質を新たに調整、精製した。in vitro でのflow chamber実験系を、固相化ICAM-1、VCAM-1、MAdCAM-1へのRap1ノックアウトT細胞、Kindlin-3ノックアウトT細胞およびTalin-1ノックアウトT細胞の接着能の違いを明らかにし、学会報告を行った。 また、リンパ節スライスの共焦点顕微鏡画像からHEVを同定し、移入した細胞分布、細胞数を定量的に評価する実験系を立ち上げ、Rap1ノックアウトT細胞、Kindlin-3ノックアウトT細胞およびTalin-1ノックアウトT細胞の違いを調べた。また、Rap1シグナルの詳細を解明するため、Rap1活性化因子(GEF)および不活性化因子(GAP)をT細胞特異的に欠損する遺伝子組換えマウスの作出を完了した(詳細は現時点で非公開)。またリンパ球だけでなく、単球、顆粒球、樹状細胞などのミエロイド細胞を用いてCOPDマウスモデルにおけるTLO内の細胞動態イメージングするため、LysM-Cre等の系列特異的Creマウス系列も作出した。マウス肺炎症モデルではエラスターゼおよびLPS投与によるCOPDモデルを進めており、BALF(気管支肺胞洗浄液)での確認まで行ったが、イメージングによるTLOの形成確認までは未だできていない。
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今後の研究の推進方策 |
・エラスターゼおよびリポ多糖投与によるマウスCOPDモデルでTLO (iBALT)が形成されるかを確認する。 ・前年度中に、HEV類似血管で発現が認められたインテグリンリガンドのプロモーター下に蛍光タンパク質レポーターを導入し、HEV可視化レポーターマウスを作出する予定であったが、代替法として、蛍光標識抗体を静脈し、一定時間後にマウスをサクリファイスしてリンパ節スライス作製し、共焦点レーザー顕微鏡撮影する実験系を立ち上げた。今後はマウスCOPDモデルの炎症時に形成される三次リンパ組織(TLO)のスライスを作成し、細胞接着シグナルを制御する因子(Rap1、Kindlin-3、Talin-1)の違いについて各種ノックアウトマウスを用いて調べる。令和1年度も引き続き、本レポーターマウス作出に向けて、準備を進める。 ・LysM-Cre等の系列特異的Creマウスを用いて、ミエロイド細胞の炎症部位へのリクルーティングにRap1が制御する細胞接着シグナルがどの段階で関与するかを検証する。 ・FRETバイオセンサーマウス「Eisuke」を用いて、TLOでのリンパ球接着イベントでERK活性に変化があるかを調べる。
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