研究課題/領域番号 |
17K08798
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
石原 克彦 川崎医科大学, 医学部, 教授 (10263245)
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研究分担者 |
矢作 綾野 川崎医科大学, 医学部, 助教 (10584873)
井関 將典 川崎医科大学, 医学部, 講師 (30532353)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | BST-1 / CD157 / 関節リウマチ / gp130F759 / マクロファージ様滑膜細胞 / 単球・マクロファージ亜集団 / CX3CR1 / CD157レポーターマウス |
研究実績の概要 |
1)マクロファージの機能におけるCD157の受容体あるいは細胞膜外酵素としての役割:Cd157KO骨髄細胞由来マクロファージ(Mφ)をLPSで刺激するとM1 MφマーカーであるCD38の発現量増加が野生型より亢進していた。しかし、M1及びM2の誘導条件下でM1/M2特異的機能遺伝子の発現に異常は認められなかった。 2)リウマチ様関節炎モデルgp130F759 の病態におけるCD157 の役割 1.マクロファージ様滑膜細胞(MLS)の時間空間的局在変化:テープ法で作製した滑膜組織切片を解析したところ、Cx3cr1eGFP/+の滑膜表層においてGFPが検出されたことから、MLSにおけるCX3CR1+単球系前駆細胞由来亜集団の存在が明らかとなった。興味深いことにCX3CR1+細胞層の直下の細胞でSTAT3のリン酸化が検出された。一方、gp130F759/Cx3cr1eGFP/+のCX3CR1+細胞は表層での配列は乱れ、滑膜表層下にも散在した。 gp130F759/Cx3cr1eGFP/+の末梢血では、CX3CR1highLy6C-の亜集団の割合が増加していた。 2.CD157陽性細胞とSCRG1陽性細胞の局在解析: 5ヶ月齢の膝関節滑膜細胞を血液系(CD45+)と非血液系(CD45-)に分画してRNAからcDNAを合成し、Cd157,Scrg1の遺伝子発現を定量したところ、Scrg1の発現量はgp130F759の血液系滑膜細胞で増加しているのに対して、Cd157はgp130F759の非血液系細胞で一過性発現量増加を示した。 先端モデル動物支援プラットフォームの支援によりレポーターマウスCd157-KuO(クサビラオレンジ) が作製された。無処置マウスのリンパ組織細胞中で腹腔MφのみでKuOの蛍光が検出された。末梢血単球のLPS刺激でKuOの蛍光は増強する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目にずれ込んだものの、CD157レポーターマウスCd157-KuOが完成したことから、研究材料に関して着実な進捗を示していると考えられる。無刺激Cd157-KuOの末梢血単核球(CD11b+)におけるKuOの蛍光はFACSCaliburのFL-2で検出されなかった。しかし、LPSで24時間刺激すると蛍光強度の増強が認められた。複数のF1世代が得られた段階で解剖したところ、リンパ組織細胞の中で腹腔MφにおいてのみKuOによるFL-2信号が認められた。24ウエルプレートに付着させた腹腔Mφでも、蛍光顕微鏡でKuO陽性細胞は検出された。したがってCd157-KuO は所期の目的であるCD157低発現細胞の可視化ではなく、成体における単球・Mφ刺激応答の検出という予想外の目的に応用できる可能性がある。二重変異マウスに関してはgp130F759/CX3CR1eGFP/+も作出済みであり、マクロファージ系滑膜細胞の局在及び末梢血における単球亜集団の変動についての予備的結果を得ている。したがって、平成30年度には作製に成功したCd157-KuOを用いた解析が始められ、予想外の結果も得ておおむね順調に進展しており、計画目標の達成は可能と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1)マクロファージの機能におけるCD157の受容体あるいは細胞膜外酵素としての役割:CD157を単独に発現するCD38KO-腹腔(P)MφにリガンドSCRG1を添加し、受容体機能を形態変化や細胞内Ca++量の変化、チロシンリン酸化で評価する。申請者が独自に作製した3種のラット抗マウスBST-1モノクローナル抗体による架橋実験でも検証する。受容体からの信号伝達が確認されたら、酵素の基質(NAD),産物(cADPR,ADPR), cADPRアンタゴニスト8-Br-cADPRの存在下で同様に受容体刺激実験を行い、酵素活性の影響を解析する。酵素活性の影響はCd157Cd38DKO-PMφの機能解析時にヒト可溶性 BST-1を添加し、得られた効果が阻害ペプチドSNP-1で阻害されるか、確認する。 2)リウマチ様関節炎モデルgp130F759の病態におけるCD157の役割 1.マクロファージ様滑膜細胞(MLS)の時間空間的局在変化 :滑膜表層に局在するCX3CR1+細胞について、多重染色によりMφ系亜集団としての特性を明らかにする(骨髄由来MLS;MHCクラスⅡ+、組織常在MLS;MHCクラスⅡ-)。 CD157,SCRG1の産生細胞の局在と細胞系譜を明らかにする。IL-6信号伝達系の活性化状態はリン酸化STAT3で調べる。 2. gp130F759の滑膜初期病変と末梢血白血球動態の関連解析:滑膜最初期病変発生前後の4~6ヶ月齢のgp130F759/CX3CR1eGFP/+の末梢血におけるLy6ClowCX3CR1highの単球数の変化を解析する。Cd157-KuO の末梢血単球を種々の濃度のIL-6で刺激し、刺激強度とKuO発現量の相関を解析する。gp130F759/Cd157-KuOを作出し、滑膜における CD157発現のレポーターとしてKuOの蛍光増強が検出できるか、確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
約1年遅れたが、30年度にレポーターマウスCd157KuOが作製され、解析が始められた。もともと企業に作製を委託するつもりで予算に計上し、この委託作製費を確保すべく抑制的に予算を運用してきた。しかし、幸いなことに先端モデル動物支援プラットフォームのモデル動物作製支援に採択され、全額援助されることとなったために、相当額が未使用分として次年度に繰り越された。もとより遺伝子改変マウスの作製が予算の中心となっていて、その他の解析費用は他の研究費で賄うつもりであったので、余剰となるわけではない。滑膜最初期病変における特定Mφ系亜集団の活性化状態の変化が捕らえられれば、本科研費の予算を網羅的解析等の委託費に充てることが可能となり、予想以上の成果が期待できる。
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