研究課題/領域番号 |
17K08798
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
石原 克彦 川崎医科大学, 医学部, 教授 (10263245)
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研究分担者 |
矢作 綾野 川崎医科大学, 医学部, 助教 (10584873)
井関 將典 川崎医科大学, 医学部, 講師 (30532353)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 結核 / 可溶性BST-1 / ROS産生 / TLR2 / Bst1-flox / 関節リウマチ / gp130 / 骨髄系細胞特異的BST-1欠損 |
研究実績の概要 |
結核患者において肺の肉芽腫及び血清中でCD157/BST-1の産生が増加していることを発見したXinchun Chenらは、Bst1欠損マウス(Bst1KO)を用いた国際共同研究として結核感染防御における BST-1の機能を解明した。Bst1KOに結核菌H37Rvを感染させたところ、野生型C57BL/6と比較して肺における結核菌数が有為に多く、組織学的に炎症巣の面積も増加していた。チオグリコレートで誘導した腹腔マクロファージ(Mf)にH37Rvを試験管内で感染させたところ、72時間後の生菌数はBst1KOで野生型の2倍以上に増加していた。しかし可溶性BST-1の添加により、生菌数は野生型と同等に減少した。結核菌感染によるROS産生はBst1KOで低下していたが、可溶性BST-1の添加により回復した。その機序として、結核菌のTLR2による認識からROS産生までの信号伝達経路において、BST-1がTLR2とPKCzの連携を媒介するという機能を持つためであることが明らかとなった。 BST-1陽性細胞の局在・動態を可視化することを目的として先端モデル動物支援プラットフォームの支援を受けて作製したレポーターマウスBst1クサビラオレンジ(KuO)(Bst1発現細胞がKuOを産生する)のヘテロマウス(Bst1KuO/+) の血液系細胞フローサイトメーター解析では、腹腔常在Mfのみで蛍光が検出された。また、ホモマウスBst1KuO/KuOの腹腔MfにおいてはヘテロBst1KuO/+で認められた細胞表面BST-1が検出されなかった。今回作製したBst1-KuOのKuO産生細胞表面ではBST-1がGPIでアンカーできずに可溶性となっていると考えられ、レポーターマウスとしての性能は不十分と判断された。 関節炎軽症化を呈するBst1KO・gp130F759 の5ヶ月齢滑膜の組織学的解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題において中心的な位置を占める予定であったBst1レポーターマウスの性能が不十分であったことから、研究の進捗に遅れをきたした。しかし、作製してくださった先端モデル動物支援プラットフォームとの検討で、今回の問題点を克服すべく設計からやり直して作り直すこととなっている。今年度の早期にゲノム編集での作製が開始されれば、年度内に実質的な成果が得られると予測されるので、補助事業期間の1年間の延長を申請し、承認されている。 一方、共同研究ではあるが、マクロファージのBST-1がROS産生を正に制御して結核感染抵抗性に関与することとその機序を分子レベルで明らかにし、論文として公表出来たことは、BST-1の免疫系における新たな機能の発見という着実な成果を得たと考えられる。 また、研究計画には記載されていなかったことではあるが、研究遂行の過程において、様々な細胞系譜に発現されるBST-1の生体における機能を解明するためには、コンディショナルターゲッティングを可能とするマウスであるBst1-floxの作製が必須と考え、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)に申請し採択された。群馬大学畑田出穂教授らの支援により、1系統のBst1-floxが得られ、科研費を使用してスピードコンジェニックを介した戻し交配を迅速に進め、骨髄系細胞特異的にcreを発現するマウス LysM-creと交配して、骨髄系細胞特異的にBst1を欠損するマウス(C57BL/6Jへ7回戻し交配済み)を作製中である。延長期間内にマロファージ系特異的にBst1を欠損するマウスLysMcre/+;Bst1flox/floxの解析結果が得られる見込みであり、Bst1レポーターマウス作製計画の遅延を取り戻すデータの取得が可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)マクロファージの機能におけるBST-1/CD157の受容体あるいは細胞膜外酵素としての役割:マクロファージのROS産生を正に制御することによりBST-1が結核感染抵抗性を亢進させる機序はBST-1 がTLR2-PKCzのタンパク質間相互作用を媒介するという予想外のものであった。受容体機能を有する細胞膜外酵素としてのBST-1の機能の詳細はまだ明らかでないので、腹腔マクロファージや骨髄由来マクロファージを材料とし、抗BST-1抗体、リコンビナントBST-1タンパク質、酵素反応の基質(NAD)や産物(サイクリックADPリボース、ADPリボース)、酵素反応阻害ペプチド、サイクリックADPリボース阻害剤8-BromoサイクリックADPリボース等を用いて試験管内での解析を進める。 マクロファージの関与が示唆される大腸炎モデルDSS腸炎がBst1KOで軽症化するとの予備的実験結果を得ている。骨髄系細胞特異的にBST-1を欠損するLysMcre/+;Bst1flox/floxとその対照マウスでDSS腸炎を誘導し、骨髄系細胞におけるBST-1が大腸炎を促進させる可能性について検証する。 2)リウマチ様関節炎モデルgp130F759の病態におけるBST-1/CD157の役割:5ヶ月齢のgp130F759の滑膜組織の免疫染色を進め、BST-1陽性細胞の局在と系譜を確定し、Bst1KO・gp130F759の組織と比較する。gp130F759のリウマチ様関節炎は、マイコプラズマ(Mycoplasma fermentans)の全身性感染で発症が早期化される。マイコプラズマの病原体関連分子パターンはTLR2で認識されるので、gp130F759とBst1KO・gp130F759のマクロファージを用いてマイコプラズマ感染によるROS産生の差異を試験管内で解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
関節リウマチマウスモデルの滑膜病変におけるCD157/BST-1陽性マクロファージ系細胞の時間・空間的動態解析のためにレポーターマウスBst1-クサビラオレンジ(KuO)を作製した。しかし、KuOの信号強度不足、及び、表面分子が切断されて可溶性分子となるという2つの問題点が判明した。より強い信号強度の蛍光タンパク質を用い、分子が切断されない設計で作り直す予定であり、それに6ヶ月以上を要するために補助事業期間を1年間延長した。作り直したマウスの搬入のための検査及び解析のための消耗品費に充てる予定である。
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