HIV感染に伴うCD4陽性T細胞数の減少はエイズ発症期で顕著であるものの、適応免疫が誘導される前の感染初期においても一過性の細胞数減少がみられる。しかし、感染初期における細胞死誘導機序ならびに病態形成との関連は未だ明らかではない。そこで研究では、HIV感染初期ヒト化マウスのCD4陽性T細胞において誘導される細胞死の解析を行った。 まず、ヒト化マウスにCCR5指向性HIV-1(R5ウイルス)あるいはCXCR4指向性HIV-1(X4ウイルス)を接種して末梢血中のT細胞数を経時的に解析した結果、R5ウイルス接種群ではメモリー集団が顕著に低下したのに対し、X4ウイルス接種群ではナイーブ集団が顕著に低下し、これらT細胞数減少は増殖性感染の進行によるものと推察された。さらに脾臓中のCD4陽性T細胞について解析を行った結果、R5・X4両ウイルス接種群ともに3日後の時点で有意な細胞死誘導が認められた。そして、活性型caspase分子群の発現について解析した結果、パイロトーシス実行分子である活性型caspase-1の発現頻度がR5ウイルス接種群ではメモリー集団で、X4ウイルス接種群ではナイーブ・メモリー両集団で有意に上昇することを認めた。一方で、アポトーシス実行分子である活性型caspase-3/7の発現頻度は、R5・X4両ウイルス接種群ともにメモリー集団ではウイルス非接種群と同等で、ナイーブ集団ではむしろ低下した。さらに、ネクロプトーシスの指標であるphospho-MLKLの発現について解析した結果、X4ウイルス接種群で誘導されることを認めた。 以上の結果から、HIV感染後早期の生体内ではパイロトーシスやネクロプトーシスといった非アポトーシス性細胞死が有意に誘導されることが明らかとなり、炎症誘導との関連が示唆された。
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