研究課題
高病原性鳥インフルエンザ(HPAI) H5N1ウイルス感染は、ヒトでの重篤な急性肺炎を惹起し、50%を超える致死率を示す。過剰なサイトカイン産生が寄与していると考えられているが、詳細は不明である。マウスモデル及び非ヒト霊長類モデルにおいて、病原性が低い季節性H1N1ウイルスとHPAI H5N1ウイルス感染による肺組織中ウイルス量と獲得免疫誘導の時間経過を解析した結果、H1N1感染個体では、感染6日後から9日後にかけて、強力に抗原特異的抗体が誘導され、それに伴いウイルスが排除された。一方、HPAI H5N1ウイルス感染個体では、感染9日後においても、抗体誘導は非常に弱く、ウイルスを排除しきれず、個体は死亡した。これまでの解析から、H1N1ウイルス感染個体では、B細胞の活性化及びIgM産生に重要なB細胞濾胞形成が明瞭に観察されるのに対して、HPAI H5N1ウイルス感染個体では、B細胞濾胞形成能が弱く、上記の抗体産生能との相関が認められた。そこで、今年度は、獲得免疫の活性化に重要な抗原提示細胞の活性化と集積を解析した。免疫組織染色及びフローサイトメトリー解析の結果、H1N1ウイルス感染BALB/cマウスに比べ、HPAI H5N1ウイルス感染マウスでは、感染3日後以降の脾臓への樹状細胞の集積が明らかに減少していることが判明した。更に、超解像顕微鏡観察の結果、これら樹状細胞とB細胞の活性化において重要な役割を果たすCD4+T細胞との細胞間相互作用が疎であることが考えられた。今後は、樹状細胞の集積異常の原因解明とB細胞の活性化経路の詳細な解析を進める。これまで、HPAI H5N1ウイルス感染個体では、B細胞濾胞の形成異常は確認しているが、抗原特異的IgG産生の減弱については不明な点も多い為、胚中心形成及び記憶B細胞や形質細胞分化についてもH1N1ウイルス感染個体との比較を行なう。
2: おおむね順調に進展している
計画していたマウス感染実験、採材ならびに免疫応答解析は予定通り行う事ができた。
抗原提示細胞の集積異常に関しては、遊走異常と感染局所での細胞死の両観点から解析を行う。遊走異常については、感染局所での細胞数と遊走因子マーカーの発現レベルを解析する。細胞死については、感染局所及び脾臓中の樹状細胞及びマクロファージをアポトーシスマーカーで標識する事で解析する。これら機序から高病原性鳥インフルエンザH5N1ウイルス感染個体で、H1N1ウイルス感染個体との相違が認められた場合には、感染培養細胞系を用いて、細胞内シグナルを解明する。更に、抗原提示細胞の集積異常がもたらす液性免疫誘導の低応答性への影響を多段階的に解析する。マウス脾細胞を中心とした解析に加え、感染局所である肺組織への各種免疫担当細胞の集積及び活性化状態についても解析する。マウスで認められる機序が非ヒト霊長類モデルにおいても同様に観察されるか否かをカニクイザルのサンプルを用いて評価する。
フローサイトメトリー用抗体など研究消耗品を当初計画した金額よりも安価に入手する事ができた為、次年度使用額が生じた。次年度の助成金と併せて解析費用に充てる予定である。
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