高病原性鳥インフルエンザ(HPAI) H5N1ウイルス感染は、ヒトでの重篤な急性肺炎を惹起し、50%を超える致死率を示す。過剰なサイトカイン産生が寄与していると考えられているが、詳細は不明である。 致死性マウスモデルを用いた研究から、HPAI H5N1ウイルス感染後の重症度と抗原特異的抗体誘導における負の相関を見出した。すなわち、HPAI H5N1ウイルス感染個体では、病原性が低い季節性H1N1ウイルス感染に比べて、抗体誘導が非常に弱く、ウイルスを排除しきれずに死亡した。また、超解像顕微鏡を用いた解析から、抗体産生を担うB細胞の活性化に必須である樹状細胞とCD4+T細胞との細胞間相互作用が疎であることが判明した。また、その要因の一つとして、樹状細胞の集積が明らかに減弱していることを明らかとした。 非ヒト霊長類モデルであるカニクイザルにおいて、B細胞活性化に伴うB細胞濾胞形成及び胚中心形成を免疫組織化学染色により解析した。HPAI H5N1ウイルス感染個体の脾臓では、H1N1ウイルス感染個体に比べて、B細胞濾胞の形成異常と胚中心形成の減少傾向が見られ、マウスモデルと同様の現象が観察されたことから、カニクイザルモデルにおいても重症化に伴う抗体誘導の減弱機序の一旦が示されたと考えられる。 HPAI H5N1ウイルス感染による重症機序に関するこれまでの報告は、ウイルス変異といったウイルス側の要因からの解析が主であったが、本研究では宿主側の獲得免疫の低応答性が重症化の一因を担っていることを示した。 H5N1ウイルスに対する抗体誘導の低応答性は、H5 HAワクチンを事前免疫しておくことで成立する免疫記憶により改善することが確認できているが、その誘導は、H1N1ウイルス感染時に比べると弱いため、抗原提示からB細胞成熟化に至る過程の詳細な解析を行う必要がある。
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