研究課題/領域番号 |
17K08802
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
高木 智 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 研究所, 免疫制御研究部長 (10242116)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 疾患関連遺伝子 / 自己免疫 / 糖尿病 / 脂肪炎症 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
Lnk/SH2B3は糖尿病関連遺伝子としても報告されており、糖代謝制御への関与機構を検討した。Lnk欠損マウスは定常時から血糖値が高く耐糖能低下が観察された。インスリン抵抗性も見られ標的組織のインスリン反応性低下が考えられた。骨髄キメラマウスを作成し検討したところ、耐糖能低下は造血系細胞 に依存することがわかった。またRag2/Lnk重複欠損マウスでも耐糖能低下が認められたことから、T細胞やB細胞の関与は補助的であると考えられた。先行研究にてLnk欠損ではIL-15反応性亢進によるCD8+T細胞活性化から小腸遠位部の絨毛萎縮が生じることを報告している。脂肪もIL-15産生組織であることから、Il15欠損と交配したところ耐糖能異常が改善し、IL-15依存性細胞が脂肪炎症を増悪させると示唆された。脂肪組織の非脂肪細胞分画を分離し解析した結果、IL-15依存性であるNK細胞を含む1型自然リンパ球群(group 1-innate lymphoid cells [G1-ILCs])が増加蓄積しており、IFN-γを産生し脂肪組織の慢性炎症を起こすことが明らかとなった。Brd-Uを投与して調べたところ、Lnk欠損では脂肪組織内G1-ILCsの増殖が亢進し増加していること、Il15欠損マウスとの交配によりG1-ILCsが著減することがわかった。さらに、抗NK1.1抗体投与によりG1-ILCsを除去すると耐糖能改善が見られることから、これらがインスリン抵抗性の責任細胞であることを明らかにした。一方、近年腸内細菌叢が耐糖能異常にも関与することがわかってきている。Lnk欠損と野生型マウスを同一ケージでco-housingしたところ、Lnk欠損マウスの耐糖能異常は改善せず、また野生型マウスにも耐糖能異常の伝搬は見られなかったことから、腸内細菌叢の変化による耐糖能異常への関与は少ないと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ計画どおり順調に進行しており、これまでに知られていない脂肪組織内の恒常性維持機構、G1-ILCsの維持活性化分子機構と脂肪炎症の病態形成機構との関連を明らかにした。細胞特異的なLnk欠損マウス作成を進めており、第2イントロンにLoxP配列を挿入したマウスが樹立できている。CRISPR/Cas9システムを用いてさらに3’側へLoxP配列の導入を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
予備実験として脂肪組織内に存在する細胞群でのLnk発現をLnk-Venusノックインマウスを用いて検討したところ、高脂肪食負荷開始から1~2週間程で脂肪組織に集積してくるCD8+T細胞で発現低下が起こる可能性が示されている。腸管免疫系におけるLnk欠損CD8+T細胞は、IL-15反応性亢進によって腸管絨毛萎縮の主な担い手となる。高脂肪食負荷時に脂肪に流入するCD8+T細胞がLnk発現低下により脂肪由来IL-15に過剰に反応することが初期のIFN-γ産生を誘導し、脂肪組織の慢性炎症のイニシエーターあるいはアンプリファイヤーとなる可能性が考えられ、この検証を推進する。Lnk発現を低下させる液性因子あるいは環境因子は、脂肪炎症の制御に重要な標的となる可能性がある。Lnk-Venus CD8+T細胞と脂肪細胞との共培養、正常あるいは肥満脂肪の共培養での活性や遺伝子発現の比較、阻害剤パネルの効果により検討し同定する。 IL-15受容体シグナル系に重要なJAK3阻害剤投与により、腸絨毛萎縮、耐糖能異常への治療効果がみられるかを検討する。徐放性に一定量が浸み出す浸透圧カプセルにJAKインヒビターを封入して背部皮下に埋め込み、経時的に病態の改善を検討する。新たに腸絨毛萎縮や耐糖能異常の病態形成機構から浮かび上がってきた標的細胞や標的制御系に対する抗体や試薬を用いて、これらの疾患モデルにおける治療効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末までに少額の残余があったが、研究継続にあたり次年度へ繰り越して次年度早々の研究経費に使用予定である。
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