研究実績の概要 |
複数の自己免疫疾患群、骨髄増殖性疾患、高血圧及び心血管障害に共通する疾患関連遺伝子として細胞内アダプター蛋白質Lnk/SH2B3が注目されている。これまでに造血系細胞の増殖抑制機能、自己免疫性腸炎や脂肪炎症における制御機能を明らかにしてきた。Lnk欠損マウスは定常時から血糖値が高く耐糖能低下、インスリン反応性低下が観察された。骨髄キメラマウスで検討したところ、耐糖能低下は造血系細胞に依存し、Rag2/Lnk重複欠損マウスでも認められたことから、T細胞やB細胞の関与は補助的であると考えられた。脂肪組織には脂肪細胞に加えて血管内皮細胞、造血系細胞、各種前駆細胞等が存在する。造血系細胞に注目して解析したところ、Lnk欠損では脂肪炎症によるインスリン抵抗性が生じており、これが脂肪組織内の1型自然リンパ球(Group1-Innate Lymphoid Cell, G1-ILC)のIL-15反応性亢進に起因するIFN-γ産生亢進によることを明らかにした。さらに、世界的に手つかずのままとなっている膵臓における組織障害や炎症形成においてLnk/SH2B3機能異常の標的細胞や関わる細胞間相互作用の解明を目指した。膵β細胞の不可逆的消失につながる病態形成機構の解析を進めるため、膵β細胞への障害性を持つストレプトゾトシン(STZ)を用いた糖尿病モデルの誘導を検討した。通常用いられる量の5日間連続投与では差は見られなかったが、STZ投与量を軽度の膵島障害を起こす量(60%,3日間)にとどめて比較したところ、耐糖能の低下、β細胞の消失は野生型では生じないもののLnk欠損では明らかであり、CD8+T細胞やCD103+樹状細胞を含む免疫細胞の膵実質への浸潤亢進が観察された。この膵組織障害への高感受性はリンパ球を欠損するRAG欠損マウスとの交配で消失しリンパ球の関与が示唆された。
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