研究課題/領域番号 |
17K08803
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
北島 雅之 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 上級研究員 (00401000)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アレルギー性皮膚炎 / TSLP / CD4 |
研究実績の概要 |
アレルゲンによって(主に)非免疫細胞から産生されるThymic Stromal LymphoPoietin (以下TSLP)は、遺伝子発現解析やゲノムワイド解析から、ヒトアレルギー性皮膚疾患と強い相関関係にある。最近、抗TSLP抗体を用いたアレルギー性疾患に対する臨床試験が進められており、良好な成績を上げている。TSLPの機能は、ヒト細胞とマウスを用いた解析から、アレルギー性皮膚疾患の発症開始に重要であると報告されている。しかし一方で、炎症発症後から増悪化していく過程におけるTSLPの役割は十分に解明されていない。そこで本課題では、皮膚炎症の増悪化におけるTSLPの役割を明らかにするために前年度までにTSLP依存的に皮膚炎が増悪化されるマウスモデルを作製し、また条件付きTSLP受容体欠損マウスを入手した。それらを使用することで、炎症の増悪化過程におけるTSLPの役割についての解析をすすめた。 炎症開始後、多数の炎症性細胞の浸潤が観察される事実からTSLPの標的となる細胞がその炎症性細胞の中に存在すると仮定した。過去の試験管内実験等の報告から特にCD4細胞に注目し、CD4抗原特異的にTSLP受容体を欠損させたマウスを作製した。上記モデルを用いて、皮膚炎の増悪化の程度を皮膚の肥厚や炎症性細胞浸潤によって評価したところ、CD4細胞のTSLP受容体を欠損させたマウスでは顕著に炎症の増悪化が抑制されることが明らかとなった。この結果は、これまで考えられていた以上に、主に上皮細胞から産生されるTSLPが、獲得免疫の主体であるCD4細胞に直接作用することがアレルギー性皮膚炎症の増悪化過程に重要であることを示唆している。今後、TSLPが作用したCD4細胞の重要性をさらに証明するとともに、TSLPが直接作用したCD4細胞がもつ、炎症増悪化をもたらす中心的な役割についてのさらなる解析が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TSLP依存的にアレルギー性皮膚炎症が増悪化されるモデルを、CD4特異的TSLP受容体欠損マウスに対して用いたところ、炎症性細胞の浸潤やサイトカイン産生が顕著に減少し、皮膚炎の増悪化が抑制されることを示す結果が得られた。一方、CD4特異的TSLP受容体欠損マウスに急性皮膚炎症モデルを用いたところ、皮膚炎の減少は観察されず、野生型と同程度に誘導された。これらの結果は、CD4細胞がこれまで考えられていた以上に皮膚炎の増悪化に重要なTSLP標的細胞であることを示唆している。 また、TSLPレポーターマウスを用いることで新たなTSLP産生細胞の同定を試みた。レポーターと抗原の相性の問題から、上記と異なるが同様の性質をもつ抗原を用いて炎症を誘導し、フローサイトメトリーを用いて1細胞レベルでの解析を実施したところ、MHCIIを発現する抗原提示細胞の一部がTSLPを発現していた。しかし、レポーターを発現する細胞が想定より少なく、さらなる解析には、実験方法等を改善していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
アレルギー性皮膚炎症における抗原の繰り返し曝露による炎症増悪化過程において、その炎症増悪化に重要なTSLP標的細胞としてCD4細胞を見出した。今後さらに、炎症増悪化過程におけるTSLP標的細胞としてCD4細胞の重要性を証明するために以下2点から行う。(1)野生型もしくはTSLP受容体欠損CD4細胞をTSLP受容体欠損マウス等へ移入し、皮膚炎症を誘導することで、TSLP標的細胞としてのCD4細胞の重要性を証明する、(2)皮膚炎症増悪化前後におけるCD4細胞の数と機能を解析する。アレルギー性皮膚炎症の増悪化過程においてTSLPが直接作用することで生じる病原性をもつCD4細胞の特徴を調べていくことは、アレルギー性皮膚疾患に対する根治治療法の研究基盤となる可能性が高い。TSLP標的細胞の解析が順調にすすんでおり、優先して研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の次年度繰越のため
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