研究課題
アレルゲンによって発現誘導されるThymic Stromal LymphoPoietin (以下TSLP)は、ヒトアレルギー性皮膚疾患と強い相関関係にあることが知られている。これまでの解析からTSLPはアレルギー性皮膚疾患の発症開始に重要であると考えられている。一方で炎症発症後から重症化していく過程におけるTSLPの役割は十分に解明されていない。本課題では、皮膚炎症の増悪化におけるTSLPの役割を明らかにするために、前年度までに既存の皮膚炎モデルを新規改変したTSLP依存的皮膚炎が増悪化するマウスモデルと条件付きTSLP受容体欠損マウスを用いて解析をおこなった。その結果、炎症の重症化にはTSLPによるCD4T細胞の活性化が重要である可能性が高いと考えられた。本年度はとくにTSLPによるCD4T細胞の活性化を介した炎症重症化への関与を検討する研究をおこなった。免疫したマウスから回収した野生型もしくはTSLP受容体欠損CD4T細胞をTSLP受容体欠損マウスに移入後に皮膚炎を重症化させた。その結果TSLP受容体欠損CD4T細胞移入マウスよりも、野生型CD4T細胞を移入したマウスでは皮膚の肥厚や浸潤するCD4T細胞などの増加、組織内Th2サイトカイン量の増加など確認された。さらにそれらのCD4T細胞を用いた競合実験では、炎症組織浸潤CD4T細胞の約7割が野生型CD4T細胞であり、TSLP受容体欠損CD4T細胞は細胞死をおこしている細胞が増加していた。これらの結果は、炎症の重症化にはTSLPが直接CD4T細胞に作用することが炎症の重症化に重要であり、TSLPがCD4T細胞の死を抑制することがその作用の一端を担っていると考えられた。今後TSLPによって活性化されたCD4T細胞の機能をさらに解析することで、炎症の重症化過程が明らかになることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
前年度までに申請者が新規改変した皮膚炎症重症化モデルマウスとCD4特異的TSLP受容体欠損マウスを用いて、TSLPがCD4T細胞に直接作用することが炎症の重症化に関与する結果をえた。本年度はさらにCD4T細胞移入実験、CD4T細胞競合実験によって、皮膚の肥厚や炎症性細胞の浸潤、組織内Th2サイトカインIL-4とIL-5量の増加などを指標した炎症重症化には、CD4T細胞が直接TSLPを受け取ることが重要であることが確認できた。CD4T細胞上のTSLP受容体に依存して増加したIL-4は、炎症誘導に加えTSLPやTSLP受容体の発現にも関与することも報告されており、この皮膚炎においても重要な役割を果たしている可能性がある。またTSLPの作用の一端として、CD4T細胞の細胞死を抑制していることが示唆された。
これまでに申請者が新規改変した抗原の繰り返し曝露によるアレルギー性炎症の増悪化モデルを用いて、その炎症増悪化に重要なTSLP標的細胞がCD4T細胞であることを条件付きTSLP受容体欠損マウスとCD4T細胞移入実験を用いて証明した。今後さらにTSLPが作用したCD4T細胞の皮膚炎重症化メカニズムを調べるために以下2点からおこなう。(1)CD4T細胞上のTSLP受容体発現と相関するIL-4と炎症増悪化の関係を解析するために、IL-4欠損マウスやIL-4レポーターマウスを駆使して、TSLPを介したCD4T細胞のIL-4産生能の重要性について解析する。(2)ほかのアレルギー性皮膚炎におけるCD4T細胞上のTSLP受容体の重要性について解析することで、TSLP標的細胞としてのCD4T細胞の意義を高める。TSLP標的細胞であるCD4T細胞の解析が順調にすすんでおり、優先して研究を進める予定である。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Journal of experimental medicine
巻: 215 ページ: 2197-2200
10.1084/jem.20172024