研究課題/領域番号 |
17K08812
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
青沼 宏佳 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (60451457)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マゴットセラピー / 創傷治癒 / ヒロズキンバエ / デブリードマン |
研究実績の概要 |
ヒロズキンバエ幼虫(マゴット)が患者の壊死組織だけを選択的に摂取する性質を利用したマゴットセラピー(MDT)は、非侵襲的潰瘍治療法のひとつである。MDTは長い歴史をもつが、ヒトの創傷治療に適したマゴットの解析はこれまでおこなわれていない。そこで、本研究ではヒト創傷治療に短期間で高い効果を上げるマゴットセラピーの開発に向け、ヒト壊死組織に適応性の高いマゴット系統の樹立と解析を進めている。 本年度は、前年度に樹立した新規ヒロズキンバエ4系統について、さらに詳細な解析を実施した。これらの新規ヒロズキンバエ系統は、現在の治療用標準系統と比較しヒト組織をより多く摂食することから、高いデブリードマン能力をもつと考えられる。一方、創傷治癒においては、効果的な肉芽形成もまた重要な要因である。そこで、これらの新規系統のうち特に摂食量が多い2系統を対象に、肉芽形成能に関わる各種解析をおこなった。これにより、新規系統の外分泌液を培養細胞に添加した群では、細胞増殖がより促進される結果が得られた。また、創傷治癒の重要な過程であるフィブリン塊の溶解に、マゴット外分泌液が直接作用している可能性についても考え、新規系統と標準系統のフィブリン溶解活性の比較をおこなった。この結果、フィブリン溶解度合いの比較においては、どの系統にも有意差は確認されなかった。 さらに、新規系統がもつ高いデブリードマン能力と肉芽形成能を支える分子基盤を明らかにするため、新規系統と治療用標準系統について、RNAシーケンス解析による網羅的遺伝子発現比較解析を実施した。その結果、新規系統では1623個の遺伝子が高く発現しており、1370個の遺伝子発現量は低いことが明らかとなった。 これらの研究から、新規樹立系統は、現在の治療用標準系統と異なる遺伝子発現パターンを持つこと、マゴット外分泌液による創傷治癒能力が高いことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に樹立した新規ヒロズキンバエ系統について、肉芽形成能の解析および網羅的な遺伝子発現解析を実施した。治療用標準系統との比較解析の結果から、新規系統はより創傷治癒に適していることが示唆され、また効果的なデブリードマンおよび創傷治癒に関与する遺伝的条件の候補遺伝子が得られた。従っておおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、マゴットセラピーの治療期間の短縮と治療効果の向上を目的とし、高機能マゴットの作出を目指すものである。これまでに新規系統を複数樹立し、それらについて治療用標準系統との比較解析を進めている。RNAシーケンス解析を用いた網羅的な遺伝子発現比較解析の結果から、新規系統は治療用標準系統とは異なる遺伝子発現パターンを持つことが示された。従って、新規系統において発現に変化が見出された遺伝子が、高い摂食能力および外分泌液による細胞増殖促進能に関与している可能性が示唆された。 そこで今後、これらの候補遺伝子についてさらに詳細な解析を展開する。遺伝子改変技術を用いて治療用標準系統の遺伝子発現を変化させ、得られたマゴットについて、体長や摂食量など複数のパラメーターによる解析を実施する。これにより、デブリードマン能力および外分泌液の創傷治癒活性に関与する遺伝子の同定を試みる。これらの解析から、ヒト難治性創傷に対する適応性が高いマゴットの条件を決定し、マゴットセラピーへの応用を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、樹立した新規系統と治療用標準系統を対象に、RNAシーケンスおよびin silico解析を用いた比較解析を実施した。これにより得られた遺伝子発現情報を元に、次年度には治療用標準系統の遺伝子改変を計画している。実施にあたっては、昆虫の飼育規模を拡大し多数の個体を維持・管理する必要がある。そこで、昆虫飼育に必要な飼育用品、飼料などを次年度に計上する。さらに、遺伝子改変ヒロズキンバエの樹立には、分子生物学的手法とヒロズキンバエ胚に注入する手法が必須であり、これらの実施に必要な一般分子生物学実験用試薬、昆虫胚注入に使用する消耗品として計上する。
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