マゴットセラピーとは、ヒロズキンバエ幼虫(マゴット)が患者の壊死組織だけを摂取する性質を利用し、難治性創傷を治療する方法である。多くの症例で成果を上げているが、最適系統の選択や評価がおこなわれず、治療に使用されているのが現状である。マゴットセラピーの重要な機序として、壊死組織の除去・殺菌作用・肉芽増生作用、が挙げられる。これらの創傷治癒促進作用には、幼虫の壊死組織に対する除去能力と、唾液および消化管から排出される分泌液が深く関与していると考えられている。本研究では、マゴットセラピーにより適したヒロズキンバエ系統を確立する目的で、野生由来の新規系統を樹立した。新規系統と治療用標準系統について壊死組織の除去能力、創傷再生能力の比較と、それに関与する網羅的な遺伝子発現解析をおこない、系統の評価を実施した。 新規系統として、異なる法医解剖検体由来の系統を複数樹立した。これらの各系統について、摂食による壊死組織除去能力を評価した。この結果、新規系統は治療用標準系統よりも体重の増加量が多く、すなわちより多く摂食していることが示された。さらに、分泌液添加による細胞増殖試験と創傷治癒試験により、創傷再生能力の評価をおこなった。その結果、新規系統の創傷再生能力は治療用標準系統より高いことが示唆された。また、遺伝子発現比較解析の結果から、同種の幼虫であるにもかかわらず、その遺伝子発現パターンが大きく異なっていることが明らかとなった。 本研究から、新規系統は現在の治療用標準系統と異なる遺伝的背景をもち、その壊死組織除去能力、および外分泌液による創傷治癒能力がより高い可能性が示された。従って、臨床治療における系統の選択と評価をおこなうことにより、創傷治癒効果が高く、効率的な治療をおこなうことができる可能性を見出した。
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