研究実績の概要 |
エキノコックス症は特効薬の無い難治性寄生虫疾患であり、本寄生虫の分布地域は地球規模で拡大を続けている。そのため特色のある媒介動物制御法やヒトの治療薬の開発が求められている。本研究では、現行の媒介動物対策である、駆虫薬入りベイト散布法を発展させるため、虫体抗原成分やアジュバントをベイトに配合することで、駆虫薬入りベイトにワクチン機能を付加できないかをイヌをモデルとした感染実験により検討した。令和元年度、ワクチン強化ベイトに配合すべき抗原を見出すため、多包条虫原頭節の成虫培養上清および凍結殺滅させた虫卵を7カ月間連続的にイヌに継続経口投与した。その後、50万原頭節を免疫イヌおよび未感作のイヌ(コントロール)に経口投与し、35日目の感染虫体数を計数・比較した。 未感作群(コントロール)に感染した虫体数は、40,690~316,200(平均177,741)匹であった。免疫群の虫体数は、6,050~223,010(平均102,981)匹であった。免疫群のイヌは感染期間中、未感作群には通常観察されない、激しい粘血便や下痢を呈したが、著しい虫体排除には至らない個体も見られた。本研究期間内にこの結果を引き起こすメカニズムは明らかにできなかったが、抗原の長期的な感作(特に経口的摂取)により、虫体排除が生じる個体があるという興味深い知見が得られた。 一方、中間宿主である野ネズミに対する対策については、前年度までに新たに見出した薬剤アトバコン(ATV)に加え、パモ酸ピランテルに培養原頭節を殺滅する効果を認めた。感染マウスを用いた病巣の治療試験を実施した結果、有意な効果は認められなかったが、今後、本研究により新たに見出された薬剤候補や、本研究期間中に他のグループが報告した薬剤などとの組合せを最適化することで、抗エキノコックス薬の開発の発展が見込める知見が得られた。
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