今年度は、申請者が過去に同定したマラリア原虫独自の転写因子PREBPについて、前年度までに樹立済みである、GFPとPREBPのフュージョン蛋白の安定発現遺伝子組換え熱帯熱マラリア原虫を用いて、抗GFP抗体によるクロマチン免疫沈降および次世代シーケンス解析(ChIP-Seq)をおこなった。前年度までの研究によってPREBPが原虫細胞核内に局在して、転写制御をおこなっているのはマラリア原虫赤血球内寄生期のうち、後期トロホゾイトから初期シゾントであることがわかっている。この時期に同調したGFP-PREBPのフュージョン蛋白 発現原虫を材料として、ChIPをおこない、沈降産物をIllumina社HiSeqによって解析した。解析には、二回の独立した原虫材料を用意して、再現性を確認した。また、バックグラウンドデータとして、免疫沈降をおこなう前のInput産物も同時に解析し、バックグラウンドとして差し引いた。次世代シーケンス解析によって得られたリードをリファレンスゲノムへのマッピングし、更にピークコール解析をおこなった結果、2回の独立した解析にて再現性を持って検出される約80のピークを絞り込むことができた。これらのピークの約7割が、赤血球内寄生期に発現している遺伝子の5’領域に位置し、PREBPはこれらの遺伝子の調節領域に結合することで、遺伝子発現の調節をおこなっていると考えられた。ChIP-Seqによって同定されたPREBPの調節ターゲット遺伝子候補のうち、約4割はPfEMP1、rifinなどの表面抗原タンパク質が多く含まれていた。今後はPREBPがこれらの表面抗原の発現タイミングをどのように制御しているかを明らかにすることで、原虫の宿主内寄生適応機序の一端が明らかとなることが期待できる。
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