研究課題/領域番号 |
17K08823
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
西山 晃史 新潟大学, 医歯学系, 講師 (80452069)
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研究分担者 |
吉田 豊 新潟大学, 研究推進機構, 特任専門職員 (40182795)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 結核菌 / 天然変性蛋白質 / 形質制御 |
研究実績の概要 |
真核細胞では、分子の一部または全体が特定の高次構造を持たない変性領域となっている天然変性蛋白質が多数見出されており、ヒストンはその代表格である。天然変性領域は様々な分子と結合してその機能を発現すると共に、翻訳後修飾による調節を受ける。細菌では天然変性蛋白質は希である。しかしながら、結核菌のヒストン様蛋白質MDP1は分子内にヒストンと同様の天然変性領域を有するユニークな蛋白質で、結核菌内で翻訳後修飾を受ける。本研究は結核菌の天然変性蛋白質の翻訳後修飾による機能調節を立証することを目的とする。 MDP1によるグローバルな細胞機能制御:抗酸菌の野生株およびMDP1欠損株を用いて、菌の発育・生存におけるMDP1の影響を調べた。さらに、質量分析等により、菌の長期生存に関連する細胞内機能に及ぼすMDP1の影響を検討した。その結果、MDP1は定常期に向けて発現量が上昇し、定常期以降の菌の生存率の低下を抑制していることを明らかにした。定常期のMDP1欠損株と野生株の蛋白質発現を質量分析で解析したところ、MDP1がDnaA、Ndh、Fas1等の蛋白質の発現をグローバルに抑制し、複製・エネルギー産生等の細胞機能を抑制すると共に、抗酸菌に抗酸化作用を付与することで、定常期での生存率の低下を防いでいる可能性が示唆された。 MDP1機能における天然変性領域の役割:MDP1機能における天然変性領域の重要性を明らかにするため、欠損させた抗酸菌を用いて野生型MDP1または天然変性領域欠損変異体(NTD)の誘導発現系を構築し、菌の表現型を比較解析した。 その結果、MDP1が天然変性領域依存的に抗酸菌の染色体を凝集させ、菌の増殖を抑制することを明らかにした。このMDP1の天然変性領域依存的な染色体凝集機序の詳細解析のため、染色体上のMDP1の結合モチーフの網羅的解析を実施すべく研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MDP1が抗酸菌の蛋白質発現をグローバルに抑制し、複製・エネルギー産生等の細胞機能を抑制すると共に、菌に抗酸化作用を付与することで、定常期での抗酸菌の生存率の低下を防いでいることを示した。 MDP1による天然変性領域依存的な染色体凝集と増殖抑制を明らかにし、MDP1機能における天然変性領域の重要性を示した。現在、野生株、変異MDP1発現株等を用いた抗酸菌染色体上のMDP1の結合モチーフを網羅的に解明するため、実験系の構築を開始している。この様に、研究は概ね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
MDP1機能における天然変性領域の重要性をさらに解析する。特に、天然変性領域依存的な染色体凝集の発現機序の解明を目指し、染色体上のMDP1の結合モチーフの網羅的解析を進める。加えて、抗酸菌において、MDP1との関連が報告されているその他の表現型、また染色体の高次構造に影響を受ける可能性が高い表現型について野生株および変異MDP1発現株(新たに作製する変異株を含む)を比較解析する。これにより、MDP1天然変性領域の重要性を順次明らかにしていき、抗酸菌におけるMDP1機能とその中での天然変性領域の役割を網羅的に把握する。 MDP1は結核菌内で翻訳後修飾を受けている。質量分析によりMDP1の翻訳後修飾の全容を明らかにする。また、MDP1に修飾を導入する抗酸菌由来の修飾酵素についても同定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
MDP1の天然変性領域の機能解析に関して、平成29年度は特にMDP1の染色体凝集作用に注目して、変異MDP1発現抗酸菌株を用いた比較解析を中心に実施した。これに関連し、抗酸菌染色体上のMDP1の結合モチーフの網羅的解析を計画しているが、最終的な次世代シーケンサー等による詳細解析は平成30年度実施とした。以上が、記載された次年度使用額が発生した理由である。
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