研究課題/領域番号 |
17K08824
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
後藤 隆次 岐阜大学, 研究推進・社会連携機構, 助教 (80326355)
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研究分担者 |
田中 香お里 岐阜大学, 研究推進・社会連携機構, 教授 (20242729)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 薬剤耐性機構 / 嫌気性菌 / Bacteroides fragilis / カルバペネム耐性 / β-lactamase |
研究実績の概要 |
腸管常在の嫌気性菌 Bacteroides fragilis のカルバペネム耐性は、時に治療を難化させる。本研究課題でこれまでに我々は、カルバペネム中等度耐性 B. fragilis GAI92214 株の全ゲノム配列を決定し、全 ORF の中から、本株の中等度耐性に寄与する可能性のある class D β-lactamase を見出した。 平成 30 年度は、本酵素およびその上流の promoter 領域(本菌種で既知)を大腸菌用ベクター pHSG398 へ挿入・形質転換し、得られた組換え大腸菌の Ampicillin と Meropenem の MIC 値を測定した。Ampicillin MIC 値は陰性コントロールの 64 倍 を示したが、Meropenem MIC 値には有意差が認められなかった。 class D β-lactamase の一部は、元の菌種内でのみ活性を示した報告例がある事から、次に我々は、大腸菌-Bacteroides 属間のシャトルベクター内に同酵素領域を挿入し、大腸菌と B. fragilis への導入を試みた。現在までに、promoter の無い組換えプラスミドを、大腸菌 HB101 株および B. fragilis NCTC 9343 株へ導入できた。今後は、promoter を有する酵素組換えプラスミドを B. fragilis へ導入し、本酵素の Bacteroides 属内での機能解析を行う。さらに、本酵素遺伝子の発現量解析、本酵素遺伝子変異株や組換え酵素を用いた酵素の機能解析のほか、本酵素以外の他の耐性因子も視野に入れた網羅的な解析に着手し、本菌種の中等度耐性機構解明を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
B. fragilis GAI92214 株の全ゲノム情報より見出した class D β-lactamase がカルバペネム中等度耐性に寄与するか否かを探るべく、本酵素およびその上流の promoter 領域を大腸菌用ベクター pHSG398 へ挿入後、多剤感受性大腸菌株へ形質転換し、得られた組換え体の Ampicillin と Meropenem の MIC 値を測定した。昨年度の予備試験より精密な MIC 測定により、本酵素の組換え体の Ampicillin MIC 値は陰性コントロールの 64 倍 を示したが、Meropenem MIC 値には有意差が無かった。 class D β-lactamase の一部は、元の菌種内でのみ活性を示した報告例がある事から、我々は大腸菌-Bacteroides 属間のシャトルベクター pNLY1 を入手し、本酵素を B. fragilis 内で機能解析する研究に着手した。ベクターサイズを予め縮小化させて形質転換効率を上昇させるべく、はじめに pNLY1 の全塩基配列を決定した (MiSeq でベクターの 165 倍長を解読)。次に、pNLY1 内の mob とアンピシリン耐性遺伝子を削除し (inverse PCR と self-ligation 法を使用)、サイズを縮小化させたベクター内にclass D β-lactamase 遺伝子 (promoter 有りと無しの 2 通り) を挿入した。現在までに、promoter の無い組換えプラスミドを、大腸菌 HB101 株および B. fragilis NCTC 9343 株へ導入できた。今後は、promoter を有する酵素の組換えプラスミドを B. fragilis へ導入し、本酵素の Bacteroides 属内での機能解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
(1)B. fragilis 由来 class D β-lactamase とその promoter 領域を含むシャトルベクターをカルバペネム感受性 B. fragilis NCTC 9343 株へ導入し、本酵素の基質特異性等の機能解析を行う。本酵素がカルバペネム耐性に寄与している場合、B. fragilis GAI92214 株染色体にコードされた当該酵素遺伝子を別のシャトルベクターで破壊することで得られた欠損株がカルバペネム感受性になる事を確認する。本酵素遺伝子の発現量の解析も行う。進捗に余裕がある場合は、当該酵素の遺伝子組換え酵素を GST 融合タンパクを利用して精製し、その生化学的性状解析に着手する。 (2)(1)において当該酵素が耐性に寄与していない場合や、寄与が不十分な場合は、染色体上で複数同定された薬剤排出ポンプ等の中から、カルバペネム耐性に寄与する可能性のある因子から順に、簡易的な機能解析を行う。また薬剤耐性遺伝子検出ソフトを用いて、ポーリン変異等の存在も検索する。複数の耐性遺伝子候補について、定量 PCR 等で遺伝子発現の予備試験を行う。その後、RNA-Seq による本格的なトランスクリプトーム解析を行う事を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 当初に想定していたよりも、B. fragilis 由来 class D β-lactamase の 顕著な Meropenem 分解活性を大腸菌内で検出することができず、対応策として実施したシャトルベクターを用いた研究に時間を要したため。また、年度始めはシャトルベクターのサイズ縮小を行わずに形質転換の実験を行っていたが、組換えプラスミド全体において、予想以上に形質転換効率が低く、ベクターのサイズ縮小化 (およびそれに先立つ全塩基配列決定) 等の対応を行ったため、想定以上に遅い進捗となった。これらの状況により、平成 30 年度に、より本格的に進行させる予定であった本酵素の遺伝子発現解析、組換えタンパクの生化学的性状解析などの研究に着手できなかったため、次年度使用額が生じた。 (使用計画) 研究がやや遅れたことと、次年度使用額が生じたこと等を考慮し、予備試験や事象の確定試験を除き、研究を効率的に進行できる解析内容 (RNA-Seq など) については、外部への委託解析を利用する事を計画している。
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