研究課題
食中毒原因細菌である腸炎ビブリオは本来海水で生息する菌であり、感染部位であるヒト腸管内では温度・塩分濃度・胆汁などその外的環境が大きく変化する。本菌はこれらの変化に応答してその重要な病原因子である3型分泌装置(T3SS1およびT3SS2)の発現を変動させることから、本研究ではこのような外的環境の変化に応答した腸炎ビブリオのT3SS発現制御機構の理解を目的としている。本研究では前年度に腸炎ビブリオのT3SS2発現の制御に関わる因子としてXを同定した。Xは温度および塩分濃度に対する応答を担っていた。このXをコードする遺伝子を欠失した腸炎ビブリオ株では外的環境条件の変化に応答したT3SS2発現変化が見られなくなるが、X遺伝子を相補した株ではこの発現変化は回復した。XはT3SS2の装置構成タンパク質のみならず分泌タンパク質の発現変化にも寄与していた。またX自体の発現量は外的環境条件の変化に影響されないと考えらえた。Xによる発現制御メカニズムを理解するために、T3SS2の遺伝子発現に重要な転写調節因子VtrAとそのレギュロンなどとの関係を検討した結果、Xによる発現制御に関わる分子を特定した。他方、XによるT3SS2発現制御には今回特定した分子以外の因子が関与することも示唆された。また、胆汁によるT3SS1発現制御について、胆汁中の有効成分を絞り込んだ。一方でT3SS1に抑制的に作用する既知の因子の影響を検討したが、いずれも影響は観察されなかった。これにより、この発現制御はこれら既知の抑制因子とは異なる機序で行われると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は外的環境変化に応答したT3SS2発現制御機構に関わる因子として同定したXについて解析を進め、その寄与を確かめるとともに、その作用(発現制御)に関わる分子を明らかにすることができた。また胆汁内のT3SS1発現に影響する成分を絞りこむことができた。さらにT3SS1に抑制的に作用する既知の因子の影響を否定することで、この抑制的制御が新たな制御機構によって説明されることが示唆された。以上より、本研究計画は総合的におおむね順調に進展していると考えられる。
腸炎ビブリオのT3SS2発現の制御に関わる因子Xについて、その発現制御メカニズムを引き続き解析する。特に、XのVtrAレギュロンに対する作用機序を検討し、Xによる外的環境の変化に対する応答(T3SS2の発現制御)の分子メカニズムの理解を目指す。また、T3SS1発現の制御について、これに関与する分子を同定し、その機能から作用機序を明らかにすることで発現制御の分子メカニズムの理解を目指す。
本年度は一部成果については学会発表に至らず当初の予定より旅費の支出が少なくなった。また、T3SS1抑制因子の解析について一部試薬はキャンペーン期間を利用して予定より安価に購入できたこと、また一部については在庫切れにより納入が本年度に間に合わなかったこともあり、本年度研究費に未使用額が生じることとなった。本年度に生じた未使用額について、次年度に繰り越して使用する。物品費については本年度に納入が間に合わなかった試薬を次年度に購入するとともに、T3SS1抑制因子の解析に必要な物品の購入に充てる。また、成果発表(学会発表など)を適宜行う予定である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Nature Microbiology
巻: - ページ: -
10.1038/s41564-019-0368-y
mBio
巻: 9 ページ: -
10.1128/mBio.01366-18
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 115 ページ: 7422~7427
10.1073/pnas.1805671115
http://www.biken.osaka-u.ac.jp/achievement/research/2019/124