研究課題/領域番号 |
17K08830
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
美間 健彦 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (80596437)
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研究分担者 |
後藤 和義 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (20626593)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 二成分制御系 / sRNA / 発現調節 |
研究実績の概要 |
Vibrio alginolyticusが保有する4つのsmall RNA(sRNA1、sRNA2、sRNA3、sRNA4)の新規の発現調節機構を明らかとするため、sRNAの転写を調節するタンパク質の同定を試みた。sRNA遺伝子の上流領域のDNA断片に結合するタンパク質をプルダウンした結果、用いたsRNAの上流領域DNAによって特異的にプルダウンされるタンパク質のバンドが見出された。それらのバンドに含まれるタンパク質を質量分析法により同定した。その結果、sRNA1の上流領域DNAに特異的にプルダウンされたバンドは、ArcA/ArcB二成分制御系のレスポンスレギュレーターであるArcAと同定された。そこで、大腸菌発現系を用いてArcAを生産し、アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。得られたArcAの4つのsRNAの上流領域のDNA断片の結合をゲルシフト法によって調べた。その結果、ArcAはsRNA1の上流領域のDNA断片にのみ結合し、その他のsRNAの上流領域のDNA 断片には結合しなかった。さらにsRNA1の上流の種々の領域のDNA断片を合成し、ArcAとの結合をゲルシフト法により調べた結果、ArcAはsRNA1の転写開始点の-88から-64の領域に結合した。この領域の塩基配列を解析した結果、他の細菌で報告されているArcA結合配列に類似の配列が保存されていることが明らかになった。その他のsRNAの上流領域には、ArcA結合配列と予想される配列は存在しなかった。arcA遺伝子破壊株を作製し、sRNA1の発現量を親株と比較した。その結果、長時間培養した際にarcA欠失株中のsRNA1の発現量は、親株よりも約15倍増加した。以上の結果よりArcAは、sRNA1の上流領域のArcA結合配列に結合し、sRNA1の発現を調節すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
V. alginolyticusが保有するVarS/VarA二成分制御系および他の細菌におけるそのorthologueは、sRNAの転写調節を介して、制御下の遺伝子の発現を調節する。細菌は、VarS/VarA系のorthologueが調節するsRNAを複数保有するが、これまでに報告されている全てのsRNAの発現は、VarS/VarA系のorthologueによって正に調節されており、それらは単純なコピー(redundant)と考えられている。V. alginolyticusはVarS/VarA系が調節するsRNAを4つ保有するが、それらの発現を調べた結果、VarS/VarA系によってsRNA2の発現のみが正に調節され、その他の3つのsRNAの発現は負に調節されると明らかとなった。この結果は、本菌の4つのsRNAの発現がそれぞれ異なった調節を受けることを示しており、これまでに報告のない発現調節を受けると示唆された。そこで、sRNAの上流領域に結合し、その発現を直接調節するタンパク質の同定を試みたところ、各sRNAの上流領域に特異的に結合すると考えられるタンパク質が同定された。まず初めに、ArcAについて解析した結果、sRNA1の発現がArcAによって調節されることが明らかとなった。これまでにVarS/VarA系のorthologueが調節するsRNAの発現がVarS/VarA系以外によって調節されることを示した報告はない。本研究の結果は、VarS/VarA-sRNA系がVarS/VarA系からのシグナルのみでなく、他の種々の系からのシグナルによっても調節されることを示す初めての結果であり、その全容解明に向け研究が大きく展開している。
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今後の研究の推進方策 |
他の細菌において、VarS/VarA二成分制御系のorthologueが調節する複数のsRNAは、これまで単純なコピー(redundant)と考えられてきた。我々は、V. alginolyticusのVarS/VarA系が調節する4つのsRNAの発現がVarS/VarA系によって異なる発現調節を受けることを見出したのを端緒として、4つのsRNAの発現調節機構の全容解明を目指した研究を開始した。 これまでにArcAがsRNA1の発現調節に関わることを明らかとした。ArcAは、ArcA/ArcB二成分制御系のレスポンスレギュレーターであるが、センサーキナーゼArcBもsRNA1の発現調節に関わるか明らかとする。また、両タンパク質を精製してin vitroリン酸化実験を行い、両者がリン酸基の転移を介したシグナル伝達を行うか明らかとする。ArcA/ArcB系は、嫌気状態での遺伝子発現を調節する系であることから、sRNA1の嫌気状態での発現を調節する可能性がある。そこで、本菌を嫌気条件で培養し、ArcA/ArcB系のsRNA1の発現量への影響を調べる。 sRNAの発現調節に関わるタンパク質の同定を目的としたプルダウン実験の結果、sRNA3とsRNA4の上流領域のDNA断片で特異的にプルダウンされたバンドに含まれるタンパク質を質量分析法によって解析した結果、これまでに機能未知のタンパク質(N646_3492)が同定された。そこで、N646_3492を大腸菌生産系を用いて生産し、アフィニティークロマトグラフィーにより精製する。得られたN646_3492を用いてゲルシフトを行い、sRNA3とsRNA4の上流領域のDNA断片に結合するか確認する。さらに、N646_3492をコードする遺伝子を欠失させた変異株を作製し、N646_3492のsRNA3およびsRNA4の発現への関与を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 物品の購入にかかる費用が予定よりも安かった。さらに日本細菌学会の本年度の総会の開催が次年度となったため、その参加にかかる経費を次年度に持ち越した。 (計画) 研究が着実に展開しているため、次年度使用額を有効に利用して研究を展開する予定である。
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