研究課題/領域番号 |
17K08834
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
鈴木 留美子 大分大学, 医学部, 助教 (70599092)
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研究分担者 |
山岡 吉生 大分大学, 医学部, 教授 (00544248)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ピロリ菌 / ゲノムシーケンス / 系統解析 / 次世代シーケンサー / 胃がん / 胃MALTリンパ腫 |
研究実績の概要 |
本研究はピロリ菌の遺伝子・系統解析を行うことで、(1)先史時代アジアにおける人類移動経路の推定、および(2)東アジア株における新規疾患関連領域の探索の2つをテーマとする。 テーマ(1)に関しては、7つのハウスキーピング遺伝子を連結したMLST(Multi Locus Sequence Typing)配列に対する集団構造解析を行い、沖縄特異的なピロリ菌集団の一つが、アジア株の祖先的な要素を持つことを確認した。これは新石器時代にあたる3~4万年前に既に人類集団が琉球列島に到達していた可能性を示唆している。同年代にパプアニューギニアとオーストラリアにも人類が到達しているが、集団構造解析ではパプアニューギニア・オーストラリア地域のピロリ菌(hpSahulグループ)と沖縄特異的な菌との間に関連性が見られる。ゲノム情報を利用した系統樹ではhpSahul系統の株よりネパールで採取された株の方が沖縄特異株に近縁であり、沖縄特異株の由来についてはさらなる解析を行っている。 テーマ(2)に関しては、日本(大分県)で採取された胃がん患者由来の株と胃MALTリンパ腫由来の株のゲノムワイドな比較から、これまでにピロリ菌の主要病原遺伝子cagAとvacA内にアミノ酸頻度に有意差のある座位を発見し、既知の病原遺伝子以外でもアミノ酸頻度差を検出している。さらにベトナム株でも胃がん株と十二指腸潰瘍株を比較し、新たな疾患関連遺伝子を探索している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テーマ(1)の鍵となる沖縄特異的なピロリ菌集団は、ゲノム系統樹では最も近縁な株が地理的に遠く離れたネパールの株であり、どのような経路で琉球列島に到達したのか不明な点が多かったが、集団構造解析からパプアニューギニア・オーストラリア地域のピロリ菌との関連性が示唆され、南方からの海洋ルートが可能性として考えられるようになった。 テーマ(2)の新規疾患関連領域の探索では、日本の胃がん患者由来の株と胃MALTリンパ腫由来の株のゲノム比較により、既知の病原遺伝子cagA, vacAでのアミノ酸頻度の差、およびそれ以外の新規疾患関連遺伝子候補を同定した。ベトナム株を用いた疾患関連因子の探索も進行中であり、今後、日本とベトナムの比較から疾患関連遺伝子の共通性・地域性を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
先史時代アジアにおける人類移動経路の推定については、MLST配列による系統樹とゲノム配列データを用いた系統樹との間に齟齬が見られる。これはMLSTに含まれる菌集団の一部(北東アフリカ系のhpNEAfrica)について、まだゲノムデータがリリースされていないこと、また、ピロリ菌間で頻繁に起こる組み替えの影響が考えられる。所属研究室では2017年よりアフリカ地域との共同研究が立ち上がっており、hpNEAfrica株が得られれば解析に加えたい。組み替えの影響は、組み替え領域を同定するテストや移入された遺伝子領域を推定する手法を用いて、非組み替え領域を系統解析に用いる工夫をする。また、系統樹の作成法についても、最尤法、ベイズ法などを試みて、最適な方法を探す。 新規疾患関連領域の探索については、ベトナムの胃がん株と十二指腸株のゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、それぞれの疾患と関連する遺伝子の探索を進める。また、日本株でも胃がん株と十二指腸潰瘍株の比較を行い、ベトナム株での結果と比較する。配列比較から判明した疾患と多型の相関関係に対しては、実際に疾患発症に至る機序や因果関係を探るため培養細胞への感染実験等の実験的手法を援用する。
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