ピロリ菌は消化器疾患のリスクファクターとして臨床的な研究が数多くなされているが、本研究はピロリ菌の遺伝子・系統解析を行うことで、(1)先史時代アジアにおける人類移動経路の推定、および(2)東アジア株における新規疾患関連領域の探索の2つをテーマとした。 テーマ(1)に関しては、PacBioシーケンサーを用いてピロリ菌の完全長ゲノムを読み取り、ゲノムワイドな系統・集団解析を行った。これにより、以前から知られていた沖縄特異的なピロリ菌集団の一つが、アフガニスタン~ネパールの菌株が近縁であることを発見した。また、このピロリ菌集団は、約4万年前に他のアジア系統の菌から分岐したことも明らかになった。これは旧石器時代に琉球列島へ人類が到達していたことを意味しており、日本列島への人類移動に新たな視点を加える結果となった。現在論文投稿中である。 (2)に関しては、ピロリ菌感染モデルとして使われるスナネズミへの経口投与後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月経過後の菌株のゲノムを次世代シーケンサーで読み取り、投与前の元株と比較して、スナネズミへの適応に伴う遺伝子の変化を解析した。その結果、17の遺伝子の21座位で変異が起きていることを明らかにし、論文を発表した。また、日本(大分県)で採取された胃がん患者由来の株と胃MALTリンパ腫由来の株のゲノムワイドな比較から、既知の病原遺伝子以外の遺伝子の違いを見出しており、論文投稿に向けて結果をまとめている。
|