研究課題
これまで、フタトゲチマダニを対象として解析を行ってきたが、フタトゲチマダニからは非病原性Rickettsia sp. LONがsecond symbiontのように高頻度に検出されるものの、日本紅斑熱の病原体であるR. japonica は検出されなかった。フタトゲチマダニもR. japonicaを媒介すると考えられているが、国内ではHlマダニのR. japonica保有率は非常に低いものと思われた。そこで、当該年度は、日本紅斑熱の病原体であるRickettsia japonicaを媒介するヤマアラシチマダニとツノチマダニについて、マダニ内のR. japonicaと他の非病原性Rickettsiaを識別できる検出法を検討した。R. japonica保有マダニのスクリーニングは、紅斑熱群リケッチアのgltAを標的としたPCRを行い、増幅産物のシーケンスにより配列を確認する方法が一般的である.しかしこの方法は、マダニ内に存在するR. japonica以外の非病原性RickettsiaのgltAも増幅されてしまうことが問題であった。ヤマアラシチマダニには、R. japonica以外にGroup 4に含まれる非病原性Rickettsiaが存在していることが明らかとなっている (“Rickettsia sp. G4”と仮称)。しかしツノチマダニが保有できるR. japonica以外のRickettsiaは不明であった。そこで、まず、ツノチマダニのRickettsia について、gltAの1.1 kbの配列を決定し比較したところ、ツノチマダニのRickettsia gltAは、ヤマアラシチマダニのRickettsia sp. G4のほぼ同一であった。この結果を基に、R. japonicaとRickettsia sp. G4のompAのそれぞれを標的とした特異検出法を考案し実施したところ、R. japonicaとRickettsia sp. G4の識別検出に成功した。さらに、ompA-PCR法では、マダニ1個体中にR, japonicaとRickettsi sp. G4の両方のRickettsiaを保有している場合があることも明らかにできた。
2: おおむね順調に進展している
おおむね順調に進んでいる。これまで、フタトゲチマダニ(Hl)を対象として解析を行ってきたが、Hlマダニからは非病原性Rickettsia sp. LONがsecond symbiontのように高頻度に検出されるものの、日本紅斑熱の病原体であるR. japonica は検出されなかった。HlマダニもR. japonicaを媒介すると考えられているが、国内ではHlマダニのR. japonica保有率は非常に低いものと思われた。そこで、R. japonicaの保有率が高いと報告のあるヤマアラシチマダニ(Hh)とツノチマダニ(Hc)が保有するリケッチア種について解析を行うこととした。我々はこれまでに、HhマダニにはR. japonica以外にGroup 4に含まれる非病原性Rickettsiaが存在していることを明らかにしている (“Rickettsi sp. G4”と仮称)。しかし、HcマダニについてはR. japonica以外に保有できる他のRickettsiaは不明であった。そこで、まずHcマダニの不明Rickettsia について、そのgltA遺伝子のほぼ全長約1.1 kbの配列を決定し、相同性・系統樹解析を行ったところ、Hcマダニの不明RickettsiaはHhマダニのRickettsi sp. G4と極めて近縁であることが判明した。次に、R. japonicaとRickettsi sp. G4のompA配列を基に、これら2つのリケッチアにそれぞれ特異的なプライマーを用いたompA-PCRを考案して解析したところ、HhとHcマダニのいずれにおいても、高感度で、高病原性のR. japonicaと非病原性のRickettsi sp. G4を識別できることに成功した。さらに、R. japonicaとRickettsi sp. G4の双方を保有するマダニ個体も特定できた。
今後は、リアルタイムPCRを用いて、HhマダニとHcマダニの1個体が保有するRickettsiaの絶対定量法を確立する。具体的には、まず、R. japonicaや非病原性Rickettsi sp. G4が検出されたマダニ個体から、ompA-PCRにより、それぞれのRickettsiaのompA断片を増幅し、ゲル生成した後、濃度測定から、各Rickettsiaのコピー数に相当する検量線を作成する。その後、各マダニ個体中のRickettsiaのコピー数について、リアルタイムPCRを用いて絶対定量を試みる。さらに、他のマダニ種についても検討する。
当該年度は、ヤマアラシチマダニとツノチマダニが保有するR. japonica と非病原性Rickettsiaの識別解析に成功し、またR. japonicaとRickettsi sp. G4の双方を保有するマダニ個体も特定するなど、多大な成果をあげた。今後は、さらなる研究推進のため、マダニ1個体中の各Rickettsiaの定量化の検討や他のマダニ種の解析を行う予定である。次年度繰越金は、そのための解析の費用に充てる予定である。
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