マダニが保有する日本紅斑熱リケッチア(Rj)とCoxiella様共生細菌(CLE)は、マダニの内在性細菌としてよく知られている。いずれも経卵伝播によりマダニの子孫に受け継がれる。CLEは、宿主マダニにビタミン類などを供給し、マダニの生命活動に不可欠であると考えられている。そこで、本研究では、マダニ種と共生細菌CLE種の進化過程の関係を検討した。その結果、Haemaphysalis(Ha)属マダニ種のミトコンドリア16S rDNAの系統樹とCLE種の16S rDNAの系統樹がほぼ一致したことから、マダニ種とCLE種は共種分化したものと思われた。また、それぞれの分岐年代を算出したところ、Ha属マダニ種の分岐は1憶4500万年前から2億1000万年前で、CLE種の分岐は3300万年前から7500万年前であった。つまり、Ha属マダニ種の分岐は、CLE種の分岐より遥かに早いことが判った。この結果は、Ha属マダニ種とCLE種の進化過程において、「マダニ種が先に分岐した後に、それぞれのマダニ種が保有する先祖型CLEが独自に進化を遂げた」という可能性が考えられた。一方で、国内のR j媒介マダニ種としては、主にヤマアラシチマダニ (Hh) が報告されている。そこで、病原性RjとHhマダニの関連性をさらに明らかにするため、宿主側のHhマダニの集団遺伝学的解析を試みた。その結果、Hh マダニには少なくとも24種類のハプロタイプがあることが判明した。そのうち、Hh マダニの4種類のハプロタイプは病原性Rjを保有していた。特に、Hap 7はすべての調査地域で検出されたことから、このHhマダニのハプロタイプが国内の日本紅斑熱の主な媒介ハプロタイプであると思われた。以上の研究成果は、今後、国内のダニ媒介性感染症の制御に大きく貢献するものと期待される。
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