研究実績の概要 |
前年度から本年度に継続していた、百日咳菌標準株および新型百日咳菌におけるバイオフィルム関連遺伝子(wcbPおよびQ)欠損株と、莢膜関連遺伝子(kpsM, kpsT, およびkpsE)欠損株の作成をすべて完了した。 一方で、当初実験計画で予定していた、Bvgs(-)標準株に新型百日咳菌の遺伝子を導入した変異株の作出に関しては、研究施設の変化によって組換え株の出現効率が大幅に低下したことから、菌株の作出に至らなかった。 本課題の中心を成すバイオアッセイ系についても、研究施設の変化により再構築に時間を要した。しかし、再構築と同時にブラッシュアップに成功し、今後の研究遂行はむしろ効率的になると考えられた。具体的には、肺上皮細胞(A549細胞)に対する各菌株の付着性解析系に関しては、細胞アッセイ用培地と細菌培養用培地の種類および組成変更によって、より安価で簡便、かつ安定した結果を迅速に得る実験系となった。マクロファージに対する食菌抵抗性に関しても、THP-1細胞の培養・分化条件、そして感染濃度の検討によって、より再現性が高い実験系とすることに成功した。 本研究課題の目標は、既存病原因子のほとんどを産生しないにもかかわらず、ヒトに百日咳を発症させる新型百日咳菌の病原性において、バイオフィルムと莢膜がいかに関与するか明らかにすることであった。研究代表者の所属機関移籍に伴うBSL2研究環境や遺伝子組換え実験環境の構築遅れにより本課題の進行は大きな影響を受け、年度中に実験内容を完遂することはできなかったが、既に得られた欠損株と改善されたバイオアッセイ系によって、課題の目標に至ることがすぐにでも可能である。今後は、得られた材料と方法でバイオフィルムおよび莢膜の意義を示した後、BvgS(-)標準株へ新型百日咳菌遺伝子を導入した株を作出、利用することによって直接的な裏付けをしていきたいと考えている。
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