研究課題/領域番号 |
17K08841
|
研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
吉川 悠子 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (00580523)
|
研究分担者 |
三好 規之 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 准教授 (70438191)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 大腸菌 / 腸内細菌 / コリバクチン |
研究実績の概要 |
ポリケタイド合成酵素(PKS)や非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)融合タンパク質は様々な細菌や真菌が保有しており、これらにより生合成される二次代謝化合物には、抗生物質や免疫抑制剤などをはじめ、多様な天然生理活性物質が含まれる。コリバクチンはPKS-NRPS経路をコードする約55 kbpの遺伝子クラスターを保有する一部の腸内細菌科に所属する細菌群によって産生される。これまでの報告では、コリバクチンを産生する大腸菌は大腸がん患者では60%程度、健常人であっても20~30%が腸内細菌として保有していることが分かっている。コリバクチンはその構造から、宿主DNAに二本鎖切断や細胞分裂時の染色体分配異常を引き起こすことが予想され、遺伝毒性物質として作用し、大腸発がんに関与すると考えられている。本研究では、前年度までに外科的に切除した日本人大腸がん患者57名(男性36名、女性21名、年齢:中央値71.0歳)の病理診断の余剰大腸組織から729株の大腸菌を分離し、14名の患者からコリバクチン生合成遺伝子群陽性の327株を同定した。本年度はこれらの菌株のERIC-PCRによる遺伝的多様性の解析と前年度に引き続きコリバクチン産生能力の解析を試みた。方法上の問題から、大腸サンプルから得られたコリバクチン産生大腸菌は分離コロニー数は多くても、同一の起源を持つクローン株である可能性があったが、実際は複数の遺伝的背景を持つ場合が多く、とある患者では11グループの遺伝的背景に分類された。また、コリバクチン産生の副産物であるN-ミリスチルアスパラギン酸(N-myr-Asn)産生量は、ある病原因子の有無により有意に差が見られることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は腸内細菌の潜在的な病原性の一つとして、大腸発がんへと進行する可能性のあるコリバクチン産生の解析を最終目的としており、患者大腸組織からの大腸菌分離・同定は各サンプルにつき最大50株までを採取した。前年度までの結果から、N-myr-Asnの産生量は分離源が同じであっても、株間においてばらつきが見られたことから、ある程度の多様性があることは予想された。しかしながら、得られた菌株が全て同一クローンである可能性を否定できなかったため、本年度はこれらのコリバクチン産生大腸菌株の遺伝的背景についてERIC-PCRによる解析を行った。その結果、腸内細菌を構成するごくごく一部の大腸菌においても、想定以上の遺伝的多様性がみられることが分かった。また、前年度までに判明した、腫瘍組織に多く集積していたN-myr-Asnの産生量の多い株において、とある既知の病原因子を保有している割合が多く、この因子が腫瘍組織への定着さらにはコリバクチンの産生にも関与していることが予想された。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度に実施した、大腸がん患者組織由来のコリバクチン生合成遺伝子群陽性菌株におけるN-myr-Asn産生の解析において、ある既知の大腸菌病原因子を保有している株の方がN-myr-Asn産生量が多かった。この結果から、この病原因子によりコリバクチン産生量の多い株の大腸粘膜上皮への定着が促進されている可能性が考えられ、未だ間接的にではあるが、コリバクチン生合成遺伝子群陽性菌株と大腸発がんとの深い関係性が示唆された。次年度以降はこの病原因子の欠損株および補完株を作製し、N-myr-Asnの産生量やコリバクチン産生に関連する遺伝子群の発現変動などを解析することで、コリバクチン産生菌の腫瘍組織における優占化のメカニズムの解明に焦点をあてる。また、本年度実行できなかった理化学研究所バイオリソースセンターに登録されているコリバクチン生合成遺伝子群陽性大腸菌も含めて解析し、これまでの大腸がん患者の結果との比較を行うことを予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度までに分離したコリバクチン遺伝子陽性菌において、コリバクチン生合成時の最終副産物であるN-myr-Asnの産生量の測定を研究連携者の協力により実施することができ、解析経費が想定していたよりも抑えられたことによる。次年度は、本年度に行うことができなかった遺伝子欠損株や補完株におけるN-myr-Asn産生量測定および遺伝子発現解析に使用することを予定している。物品費として、感染実験に必要な細胞培養用の培地、血清、ピペット、培養フラスコなど、また免疫学的および生化学的解析に必須である宿主側因子の特異抗体、発現ベクターなどに用いる試薬を購入する。さらに、一般試薬・一般器具類および遺伝子組換え用の特殊器具および試薬の購入にもあてる。旅費は研究分担者との打ち合わせや情報収集、学会発表などのために利用し、その他はプライマー合成、印刷製本または論文投稿料などの費用にあてる。
|