研究課題/領域番号 |
17K08842
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研究機関 | 新潟薬科大学 |
研究代表者 |
西山 宗一郎 新潟薬科大学, 応用生命科学部, 准教授 (30343651)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コレラ菌 / 走化性 / 環境応答 / 病原因子 / 遺伝子発現制御 |
研究実績の概要 |
コレラ菌のToxR/TcpP制御ネットワークは温度やpHなどの様々な環境因子を検知し,それに応じて病原因子の発現を調節している.コレラ菌は胆汁成分のタウリンに誘引される走化性を示すが,タウリン走性が30℃培養時よりヒト体温に近い37℃培養時に著しく上昇することから,上述のToxR/TcpPネットワークの関与が疑われる.本研究ではタウリン走性を担う走化性受容体Mlp37がToxR/TcpP制御下にあるのかの検討(テーマ1),及び構造遺伝子がpathogenicity islandに位置しToxR/TcpPで制御されるが解析が進んでいない走化性受容体ホモログMlp7, Mlp8と,Mlp8結合タンパク質と考えられるAcfCの機能解明(テーマ2)を目的としている.平成30年度は以下のように研究を進めた.
テーマ1:前年度までにtoxRやtcpPの欠失株では30℃培養時の抑制が外れ,37℃培養時に匹敵するタウリン走化性応答を示すことを示した.本年度はToxR/TcpPの下流にある転写因子ToxTの遺伝子欠失株を作製し解析した.走化性アッセイの結果,toxT欠失株はtoxR欠失株やtcpP欠失株と類似した表現型を示した.すなわち30℃培養時においてタウリン走化性応答は大きく上昇していた.この結果から,mlp37の発現制御にToxT以降の下流因子が関与する可能性が示唆された.
テーマ2:テーマ2:Mlp8(AcfB)については遺伝子上ですぐ下流にあるペリプラズムタンパク質AcfCと協同して機能すると予想されている.近年AcfCの構造が明らかになり,その構造情報ではAcfCにD-リンゴ酸が結合していた.そこでD-リンゴ酸がMlp8-AcfCの誘引物質となるかを検討したが,発現菌の走化性応答は極めて弱く,D-リンゴ酸が強力な誘引物質であるという積極的な証拠は得られなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね平成30年度の研究実施計画通りに解析が進んだため.
テーマ1:計画通り, toxT欠失株の構築に成功し,それを用いた機能解析を行うことができた.toxT欠失株を用いたタウリン走化性アッセイの結果は,mlp37の制御にToxT以降の下流因子が関与する可能性を示唆するものであった.現在欠失株中でのmlp37プロモーター活性も解析を始めているが,いずれの解析も,より確度の高いデータを得るため実験条件の詳細な検討が必要である.前年度に得られたToxTペプチド抗体についてその有効性を検討したが,現在までの実験条件下ではToxT量をモニタできるような有望な結果は得られていない.こちらも抗体濃度やサンプル量等を変動させ,最適条件を検討する.
テーマ2:Mlp8-AcfCについては,先述の様にD-リンゴ酸がその誘引物質となるか検討したが,発現菌は明確な誘引応答を示さず,積極的な証拠は得られなかった.D-リンゴ酸はAcfCに結合するとしても誘引応答を惹起しないアンタゴニストとして働くか,あるいは親和性が相当低いと考えられる.一方でMlp8・AcfCとも十分量発現し,走化性の指標である軟寒天培地でのスウォームをサポートしたことから,構築した機能解析系自体は正常に動いていることが確認された.引き続きリガンドの探索を継続する.
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今後の研究の推進方策 |
テーマ1については,toxT欠失株での走化性アッセイ,mlp37のプロモーターアッセイをリピートしデータの確度を高めると共に,toxR欠失株・tcpP欠失株・toxT欠失株それぞれについてMlp37の発現レベルをWestern及びNorthern blottingで確認する.ToxTについても同様にtoxR欠失株・tcpP欠失株中での発現レベルを調べる.また状況により各変異株の当該遺伝子による相補実験を行う.ToxT抗体については有効に利用できるよう,引続き実験条件やプロトコールの改良を検討する.
テーマ2については,平成31年度は走化性受容体ホモログMlp7の機能解析を中心に行う. Mlp7も遺伝子が前述のpathogenicity islandにありToxR/TcpPの制御下にあるが,リガンドが不明であり,pHセンサーとして働く可能性も示唆されている.まずは簡易的な解析が行える大腸菌再構成系から検討し,走化性刺激を特定できればコレラ菌での過剰発現系でより詳細な解析を行う.Mlp8-AcfCについてはTCAサイクルの中間産物や糖類を中心に,リガンドを引き続き探索する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は概ね計画通り順調に進展しているが,遺伝子組換えによる欠失株の作製に僅かな遅れが生じているため,次年度使用額が生じた. 次年度使用額は今年度の実験計画のうち,走化性能解析に必要な消耗品の購入に充てる.
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