コレラ菌はToxR/TcpP制御ネットワークを介して様々な環境因子を検知し,病原因子の発現を調節している.走化性受容体についても一部はこのネットワークの制御下にある.本研究ではタウリン走性受容体Mlp37がToxR/TcpPによって発現制御されているかの検討(テーマ1),及びToxR/TcpPの制御下にありながら役割がよくわかっていないMlp7・Mlp8の機能解明(テーマ2)を目指し解析を進めてきた.今年度は以下のような成果を得た.
テーマ1:今年度はToxR/TcpPの下流にある転写因子ToxTの遺伝子欠失株を用いて引き続き解析を行った.toxT欠失株では30℃培養時のタウリン走化性応答の抑制が外れ,応答は大きく上昇していたが,一方でその転写活性は欠失株でも抑制が失われていなかった.この結果から,mlp37の転写制御について,ToxT以外の別経路の存在が示唆された.
テーマ2: 今年度はMlp7の機能解析を中心に進めた.コレラ菌mlp7過剰発現株を用いてメチル化アッセイを行ったところ,予想に反して数種のアミノ酸に対して忌避応答を媒介することが示唆された.解析を進めて検証したところ,少なくとも2種のアミノ酸について忌避応答を直接観察することに成功した.これら2種のアミノ酸はMlp37に対して強い誘引物質であること,ToxR/TcpP制御ネットワークによりmlp7とmlp37が正反対の制御を受けていることから,コレラ菌は環境により必要とするアミノ酸のセットが異なり,環境刺激に応じて走化性受容体の発現プロファイルを切替えることで特定アミノ酸への走性の感度を調整していると考えられる.
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