炎症性腸疾患(IBD)の発症機序の1つとして、腸管内でのバクテリオファージによる腸内細菌の溶菌、それに続く菌体内からの抗原の露出により、炎症が惹起さることが想定される。IBDを含むdysbiosisが生じる腸管疾患を理解する上で、ファージと細菌叢との関係性を明確にする必要が有る。本研究は、ファージが引き起こす腸内細菌叢破綻メカニズムに関する研究である。健常者およびIBD患者の腸内の全バクテリオファージ解析(phageome解析)と細菌種の株レベルでのゲノム比較・多様性解析を行い、ファージにより溶菌される細菌叢中の主要クローンとそのファージを特定し、ファージによる腸内細菌叢破綻メカニズムを解明することを目的としている。 本年度では、健常者糞便中の細菌を遠心分離にて回収し、菌懸濁液を作成後、潰瘍性大腸炎(UC)患者の活動期の糞便よりバクテリオファージを回収し、ファージカクテルを健常者糞便中の細菌に対して感染実験を行った。接種および未接種サンプルとの比較をメタゲノム解析により行った。しかしながら、UC患者由来のファージが増殖している傾向は認められなかった。日本人の腸内細菌叢の傾向として、Bacteroides、Bifidobacterium、Lactobacillus属系の菌種が主要な細菌であるため、健常者糞便よりBacteroides属細菌を分離し、ファージカクテルを接種し感染実験も試みたが、溶菌能は確認されなかった。これらのことから、UC患者より回収したバクテリオファージは、感染性が失われていたか、今回供試した糞便中の細菌にはバクテリオファージが感染を成立させるための宿主が存在しておらず、主に宿主範囲が狭いファージが主体であったことが示唆された。
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