研究課題/領域番号 |
17K08846
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
鈴木 仁人 国立感染症研究所, 薬剤耐性研究センター, 主任研究官 (70444073)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 薬剤耐性 / 病原性 / VI型分泌機構 |
研究実績の概要 |
細菌のVI型分泌機構 (T6SS) を構成する装置は、バクテリオファージの尾部構造と類似した鞘状構造を細胞質内に形成しており、ATPをエネルギー源とする伸縮運動によって、同構造の内部に収められたシリンジを隣接細胞へ物理的に注入する。シリンジはHcpタンパク質がリング状に重合して形成されており、先端には別のトランスロケーターであるVgrGタンパク質とPAARタンパク質がスパイク状構造を形成している。今までに報告されたほとんどのVI型分泌タンパク質の分泌経路は「VgrGとの結合」または「VgrGとの融合」であり、前者の場合には、しばしばvgrG遺伝子と酵素活性を有する基質タンパク質をコードする遺伝子がオペロンを形成しており、後者の場合にはvgrG遺伝子のC末端に酵素活性ドメインが融合している。本年度は、アシネトバクター・バウマニ、緑膿菌、大腸菌の多剤耐性流行株において、新規のVI型分泌タンパク質候補の探索を行った。各菌株において、流行株と非流行株を含めた大規模な比較ゲノム解析を行い、菌株特異的なvgrG遺伝子を同定した。各菌株特異的なvgrG遺伝子において、vgrGの下流に存在するtseX遺伝子の遺伝子産物が「VgrGとの結合」によってT6SSを介して分泌されることが示唆された。また、各菌株の特異的なvgrG遺伝子の遺伝子産物において、「VgrGとの融合」型のVI型分泌タンパク質となることが推測される酵素活性ドメインを同定することはできなかった。各菌株に関して、細菌用発現ベクターにHAタグを付加させたtseX遺伝子のクローニングを行い、各菌株の野生株と各vgrG欠損損株でTseXを発現誘導し、増殖速度と生菌数からTseXの酵素活性に依存した細胞障害性を確認し、培養上清中の分泌タンパク質を濃縮し、抗HAタグ抗体で検出することによって、TseXのT6SSを介した分泌を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標としていたアシネトバクター・バウマニ、緑膿菌、大腸菌の多剤耐性流行株において、新規のVI型分泌タンパク質候補TseXを同定し、各菌株において、TseXの酵素活性に依存した細胞障害性を確認し、TseXのT6SSを介した分泌を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
細菌内または哺乳類細胞内においてTseXと結合するタンパク質をLC-MS/MSにて探索し、標的因子の同定を行う。TseXの酵素活性が明らかな場合には、活性部位の変異体を作製して、野生型と変異型を合わせて検討を行う。TseXの標的因子の機能が未知である場合は、細菌においては欠損株の作製、哺乳類細胞においては過剰発現、shRNAによるノックダウン、CRISPR/Cas9によるノックアウトを組み合わせて検討を行う。野生株とtseX欠損株の混合培養実験、野生株とtseX欠損株のHeLa細胞およびCHO細胞への感染実験を行い、TseXの細胞障害性や宿主自然免疫経路の阻害など、標的因子が細胞機能に与える影響を解析する。また、オプソニン化した細菌をFcγ受容体を安定発現させたCHO-Fcγ細胞、RAW264.7細胞、DC2.4細胞に感染させ、貪食および細胞内膜輸送を共焦点レーザー蛍光顕微鏡にて観察する。細胞内微小構造の精査が必要な場合には透過型電子顕微鏡による観察も行う。実験の進度に合わせて、臨床分離株を用いたマウス経鼻感染モデルを構築する。菌種・菌株毎に最適な投与菌量や感染期間の条件検討を行い、個体の体重増減、肺における生菌数、感染部位局所での病理組織像、血中におけるサイトカイン産生量などの項目を解析する。野生株とtseX欠損株の混合感染を行う場合には、TseXの活性によっては、細菌-宿主間に加えて、投与した細菌-細菌間の相互作用も考慮する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた論文の英文校正費用が必要なく済んだため。
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