研究課題
近年、薬剤耐性菌による難治性の感染症が世界的な公衆衛生上の重大な問題となってきており、特に、2000年代に急激に進化を遂げたカルバペネム系抗菌薬耐性を含む多剤耐性のグラム陰性菌は、感染症の治療に有効な抗菌薬がほとんど存在しない。MLST (multilocus sequence typing) による分子疫学分類において、アシネトバクター・バウマニのST2 (sequence type 2)、緑膿菌のST235、大腸菌のST131などは、日和見感染症の起因菌ながら同一クローンが世界中の医療機関に拡散していることが明らかになっている。本研究では、アシネトバクター・バウマニ、緑膿菌、大腸菌の臨床分離多剤耐性流行株において、菌株特異的なVI型分泌タンパク質遺伝子tseX (それぞれtseX-ab、tseX-pa、tseX-ecと命名) を同定した。アシネトバクター・バウマニの流行株 (ST2株) から同定したTseX-abは細菌、緑膿菌の流行株 (ST235株) から同定したTseX-pa、および大腸菌の流行株 (ST131株) から同定したTseX-ecは宿主細胞を標的としていることが推測された。細菌および宿主細胞内において各TseXの標的分子の同定を試みた。TseXの酵素活性が明らかな場合には、活性部位の変異体を作製し、野生型と変異型を合わせて検討を行なった。野生株とtseX欠損株の混合培養実験、野生株とtseX欠損株の培養細胞への感染実験を行い、TseXの細胞障害性や宿主自然免疫経路の阻害など、標的因子が細胞機能に与える影響を解析した。オプソニン化した細菌をFcγ受容体を安定発現させたCHO-Fcγ細胞に感染させ、貪食および細胞内膜輸送を共焦点レーザー蛍光顕微鏡にて観察した。
2: おおむね順調に進展している
アシネトバクター・バウマニ、緑膿菌、大腸菌の臨床分離多剤耐性流行株 (それぞれMLST解析にて、ST2、ST235、ST131に属する株) において、菌株特異的なVI型分泌タンパク質遺伝子tseX (それぞれtseX-ab、tseX-pa、tseX-ecと命名) を同定し、現在、臨床上問題となっている薬剤耐性グラム陰性菌の流行株において、VI型分泌タンパク質TseXの酵素活性に依存した細胞障害性の分子メカニズムを解析することができた。
アシネトバクター・バウマニ、緑膿菌、大腸菌の臨床分離多剤耐性流行株 (それぞれST2、ST235、ST131) を用いたマウス経鼻感染モデルを構築する。菌種・菌株毎に最適な投与菌量や感染期間の条件検討を行い、個体の体重増減、肺における生菌数、感染部位局所での病理組織像、血中におけるサイトカイン産生量などの項目を解析する。各菌種において、野生株とtseX欠損株の混合感染を行い、細菌-宿主間に加えて、投与した細菌-細菌間の相互作用も考慮する。
当初予定していた論文の英文校正費用が必要なく済んだため。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
Emerging Infectious Diseases
巻: 25(5) ページ: 883-890
10.3201/eid2505.171890
Tetrahedron Letters
巻: 60(20) ページ: 1375-1378
10.1016/j.tetlet.2019.04.026
Japanese Journal of Infectious Diseases
巻: in press ページ: in press
10.7883/yoken.JJID.2018.403
Genome Announcements
巻: 6(20) ページ: e00397-18
10.1128/genomeA.00397-18