JSRVエンベロープはSUドメイン(378アミノ酸)とTMドメイン(237アミノ酸)から成り、TMドメインのC末端44アミノ酸が細胞内領域(CT)として存在する。肺腺腫因子である外来性JSRVと、染色体に内在化する非発がん性enJSRVの間でCT領域のアミノ酸配列は保存されておらず、トランスフォーメーションにおいて外来性JSRVのCT領域は重要な役割を果たしている。これまでにCT領域の円偏光二色性(CD)スペクトル解析、およびNMRスペクトル解析を行い、細胞内領域の一部がamphipathic helix構造をとることを見出してきた。一方、SUドメインの欠失もトランスフォーメーション効率を著しく減少させることから、SUドメインの重要性が示唆されている。そこでSUドメインの構造-機能相関性を明らかにするために、SUドメインの発現を大腸菌で試みた。pGEXプラスミドによるGST融合タンパク質や、pETプラスミドによるHis-tag 融合タンパク質としての発現は確認できたが、大部分は封入体として分画されたため、構造解析を行うために十分な量を回収することが困難であった。そこで、His-tagをC末端に付加したSUドメインを293T細胞にトランスフェクションし、細胞外へ分泌発現させる哺乳類細胞発現実験系を構築した。培養上清を回収しNi-NTA、さらにゲルろ過を行い、精製したSUドメインをNative-blue PAGEで検出した結果、各フラクションで単量体や多量体と想定される分子量のバンドを確認した。CDスペクトルで単量体、および多量体の二次構造を解析した結果、各フラクション間でほぼ同比率のβ-シート、α-へリックス、ターン構造を見出した。また、多量体のSUドメインを透過型電子顕微鏡、さらにクライオ電子顕微鏡で観察した結果、ヘッド状部分とひも状部分から成る構造体を見出した。
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