研究課題/領域番号 |
17K08849
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
森田 英嗣 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (70344653)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フラビウイルス / VCP / NPL4 / Stress Granule |
研究実績の概要 |
フラビウイルス複製に特化したオルガネラを単離精製し、プロテオーム解析によってそこに集積する宿主因子群を同定した。同定された宿主因子のひとつであるVCPをsiRNA処理にてノックダウンした細胞に日本脳炎ウイルス(JEV)を感染させると、48時間後の培養上清中に放出される娘ウイルス量がコントロールsiRNAを処理した細胞と比較して1/1,000,000程度まで減少していることを見いだした。また、siRNAに抵抗性を示すサイレンス変異を導入した種々のVCP変異体発現ベクターを用いて機能回復実験を行ったところ、ATPase活性とNPL4への結合がVCPの機能に重要であることが明らかになった。siRNA処理によって、ウイルス蛋白質の発現量が著しく低下し、さらにその効果はウイルス感染系だけでなく、ウイルスゲノムRNAを遺伝子導入した場合においても見られたことから、VCPの機能はウイルスが細胞内に侵入した後に必要であることを示している。さらに、ウイルス蛋白質であるNS4BとNPL4が相互作用することを見いだした。 これまでにストレス顆粒の解除にVCPが作用しているという報告があることから、ウイルス感染細胞におけるストレス顆粒形成とVCPの関係について調べた。その結果、感染細胞のVCP機能を阻害した場合においてのみ著しいストレス顆粒の増加が確認された。また、ウイルス感染細胞をはじめ、VCP複合体をリクルートするJEV-NS4Bを発現させた細胞にて、ストレス顆粒の形成が阻害されていることを見いだした。これらの結果は、ウイルスはVCPを局所的にウイルス複製オルガネラにリクルートすることによって、宿主の翻訳抑制機構から回避している可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、siRNAによるフラビウイルス増殖抑制効果が最も強かった宿主因子であるVCPに焦点を絞って解析を進めてきた。siRNAによるウイルス増殖抑制効果、VCPのATPase特異的に作用する低分子化合物のウイルス増殖抑制効果を見いだした。また、siRNAレスキュー実験により、ATPase活性、及びNPL4との結合活性がVCPのウイルス増殖に対して必要であることを明らかにした。また、酵母twoハイブリッド法及び、免疫沈降法により、ウイルス蛋白質のひとつであるNS4BがNPL4と直接相互作用することが見いだされた。さらに、siRNA処理により、ウイルス増殖のどの段階が阻害されているのか詳細に調べたところ、ウイルスの細胞内への侵入直後にVCPの機能が必要であることが明らかになった。ウイルス感染細胞内におけるストレス顆粒の形成について調べたところ、低分子化合物やsiRNAによってVCPの機能を抑制した場合においてのみ、著しいストレス顆粒の増加が確認された。さらに、ウイルス感染細胞は亜ヒ酸による酸化ストレスによって形成されるストレス顆粒の形成が抑制されていることを見いだした。この抑制は、ドミナントアクティブPKRや、リン酸化ミミック変異体eIF2-alphaの発現によって誘導されるストレス顆粒においても確認された。さらに、NS4BやVCPの発現細胞においてもストレス顆粒形成の抑制がみられ、且つ、puromycinラベリングやluciferase遺伝子の発現解析から、翻訳抑制の解除も確認された。これらの結果は、ウイルスによるVCPのリクルートが宿主の翻訳抑制からの解除に重要な役割を持っていることを示している。現在、VCPの他の機能であるER関連分解(ERAD)のウイルス増殖における役割などを調べている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、フラビウイルス増殖におけるVCPの役割について解析を進める。VCPのsiRNAのウイルス増殖抑制効果は劇的であるが、ストレス顆粒形成への役割は限定的である。この結果から、VCPは他のプロセスにも関与している可能性が考えられる。第一候補はER関連分解(ERAD)である。VCPのERAD経路での役割は良く知られており、また、ウイルス蛋白質には多くの膜アンカー型蛋白質が含まれているため、ERADがウイルス増殖に作用していても不思議ではない。過去の報告では、ERAD主要因子であるSel1L欠損細胞でもウイルスの増殖が変化しないことが示されているが、最近、Sel1L非依存的なERAD経路の存在も報告されている。今後はSel1L非依存ERAD経路のウイルス増殖の役割について、各種遺伝子欠損細胞を用いて検討していく。 同時に、他の宿主因子のスクリーニングも進める。これまでに我々はsiRNAを用いたノックダウンによる機能不全のスクリーニングを行ってきた。しかし、このスクリーニングは標的に対し相補的に機能する代替因子がある場合においては機能しない。そこで、今後はプロテオーム解析によって同定した因子群のcDNAのクローニングを行い、過剰発現によるウイルス増殖への影響について解析を行う。すでに、100種類を超える宿主候補因子のcDNAのクローニングを終えている。今後、これら因子群の発現細胞にレポーター遺伝子を組込んだフラビウイルスサブゲノムレプリコン遺伝子を同時に遺伝子導入し、レポーター遺伝子の発現量を調べることで、個々の因子のウイルスゲノム複製能に対する影響について検討する。また、影響が確認された因子について、ウイルス増殖のどの段階に作用するか詳細に調べる。
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