研究課題
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、ヒトに脳炎、性器ヘルペス、眼疾患、新生児ヘルペスといった多様な疾患を引き起こす医学上重要なウイルスの一つである。関連する医療費はアメリカ合衆国で年間30億ドルと試算されるなど、公衆衛生上大きな問題となっており生体内におけるHSVの病態をより深く理解する必要があると考えられる。伝統的にウイルス学では、感染細胞から培養液に放出されたウイルスを“ウイルス液”として実験に用いてきた。HSVの場合、このcell freeのウイルスによって引き起こされる感染とは全く異なる感染様式として、ウイルス粒子が細胞外に放出されず直接隣の細胞に感染する方法(細胞間伝播)が存在することが知られている。HSVの場合、生体内においてはほとんどcell freeのウイルスが検出されず、主に細胞間伝播していると考えられている。細胞間伝播は、薬剤や抗体のアクセスに抵抗するため、抗ウイルス戦略上無視できない。このように細胞間伝播の重要性は明らかである一方で、cell freeのウイルスによる感染と比較して、その複雑さからあまり研究はされていない。HSVがコードするgEが細胞間伝播に必要であるが、その具体的な意義は不明である。平成29年度は、gEと会合する宿主因子の中で、HSVによる細胞間伝播を促進する宿主因子に注目して解析を行った。当該宿主因子の過剰発現により、HSVの細胞間伝播は促進されるが、この効果はgEに依存していた。またこの因子の発現抑制により、HSVの細胞間伝播はやはりgE依存的に低下した。また感染細胞中でgEと当該因子は共局在していた。これらの結果から、当該因子はgEの機能発現に必要であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
これまで、HSV細胞間伝播に必須のウイルス因子gEは細胞間において宿主因子を認識することで細胞間伝播を駆動するとされてきた。本研究で得られた因子は、通常細胞間に局在するものではなく、当初期待していたgE受容体という概念とは異なるものであった。一方で、当該因子の量がgE依存的なHSV細胞間伝播の効率と相関するという事実は、gEの機能発現は細胞間でおこされているわけではないことを示唆する。本研究の推進により、gEの機能発現機構が明らかになると考えられる。
上記の結果は当該因子の重要性を示すものであるが、依然としてgEの機能発現およびHSV細胞間伝播の具体的なメカニズムは不明のままである。今後は、gEの有無によって当該因子がどのような影響を受けているのかを解析する。また当該因子は多機能因子として知られているが、既知の相互作用する宿主因子への影響およびこれらの宿主因子のHSV細胞間伝播への貢献を明らかにしたいと考えている。
(理由)既報であったgEに対する受容体が細胞間に存在するという仮説に基づいて研究計画を立て、その探索を主な柱としていた。しかしスクリーニングの結果、研究代表者が得た候補因子はいずれもgE受容体とはなり得ないものばかりであった。そのため、得られた宿主因子の解析法を当初計画とは異なるものに変更し、新たに条件検討を行う必要が生じた。そのため、本年度に行う予定であった一部の解析を来年度行うこととした。(使用計画)得られた候補因子の細胞内局在をより詳細に解析し、gEとの関係性を明確にする。これまで試みてきた抗体を用いた蛍光免疫染色法に加え、HSV感染細胞に特有の非特異的な染色を避けるため、蛍光タンパク質を融合させた当該因子を発現する細胞を作製し、改めて解析を行う。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 7件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (3件)
Cell Host Microbe.
巻: 23 ページ: 254-265
doi: 10.1016/j.chom.2017.12.014.
J Virol.
巻: 91 ページ: e00271-17.
doi: 10.1128/JVI.00271-17.
巻: 91 ページ: pii: e01068-17.
doi: 10.1128/JVI.01068-17.
J Clin Invest.
巻: 127 ページ: 3784-3795.
doi: 10.1172/JCI92931.
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/kawaguchi-lab/KawaguchiLabTop.html
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/research/papers/post_98.php
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/research/papers/post_90.php