研究課題
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、ヒトに脳炎、性器ヘルペス、眼疾患、新生児ヘルペスといった多様な疾患を引き起こす医学上重要なウイルスの一つである。関連する医療費はアメリカ合衆国で年間30億ドルと試算されるなど、公衆衛生上大きな問題となっており生体内におけるHSVの病態をより深く理解する必要があると考えられる。伝統的にウイルス学では、感染細胞から培養液に放出されたウイルスを“ウイルス液”として実験に用いてきた。HSVの場合、このcell freeのウイルスによって引き起こされる感染とは全く異なる感染様式として、ウイルス粒子が細胞外に放出されず直接隣の細胞に感染する方法(細胞間伝播)が存在することが知られている。HSVの場合、生体内においてはほとんどcell freeのウイルスが検出されず、主に細胞間伝播していると考えられている。細胞間伝播は、薬剤や抗体のアクセスに抵抗するため、抗ウイルス戦略上無視できない。このように細胞間伝播の重要性は明らかである一方で、cell freeのウイルスによる感染と比較して、その複雑さからあまり研究はされていない。HSVがコードするgEが細胞間伝播に必要であるが、その具体的な意義は不明である。平成30年度は、gEと相互作用し、HSVによる細胞間伝播を促進する宿主因子と、当該因子が関与する細胞内シグナルに注目して解析を行った。この細胞内シグナルは、HSVの細胞間伝播に貢献しており、また当該因子は、HSV以外のヘルペスウイルスにおいても細胞間感染に関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
これまで、HSV細胞間伝播に必須のウイルス因子gEは細胞間において宿主因子を認識することで細胞間伝播を駆動するとされてきた。本研究では、gEと相互作用する宿主因子のHSVによる細胞間感染への貢献を解析している。gEと相互作用する宿主因子は、細胞内シグナル伝達に貢献していることが知られているため、本年度は細胞内シグナルに注目して解析した。その結果、この細胞内シグナル伝達がHSVの細胞間伝播に貢献していることが明らかとなった。また、HSV以外のヘルペスウイルスにおいても当該因子が細胞間伝播に関与している可能性が示唆された。
上記の結果は、当該因子が、HSV細胞間伝播を促進する分子メカニズムに大きな示唆を与えると考えられる。すなわち、HSV gEは細胞内シグナルに影響を与えることで、細胞間伝播を促進している可能性が考えられる。今後は、当該シグナルの下流で、HSVウイルス粒子の細胞内輸送や細胞内小胞の膜融合に影響を与える実行因子の探索を進めたい。
本研究では、当初同定を目指していたgEに対する受容体は得られていないが、代わりにgEが細胞内分子シグナルカスケードに影響を与えることで細胞間伝播を駆動している可能性が示唆された。これは、これまで考えられてきたgEの作用機序とは異なるものであったため、細胞内分子シグナルを解析する実験系を新たに構築した。そのため、条件検討に多くの研究時間を割く結果となったため、当初の研究計画を変更し、本年度に行う予定であった解析の一部を来年度に行うこととした。
すべて 2018 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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