研究課題/領域番号 |
17K08851
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
有井 潤 神戸大学, 医学研究科, 特命准教授 (30704928)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ウイルス / HSV / 糖タンパク質 / 細胞間伝播 / ウイルス粒子形成 |
研究実績の概要 |
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、ヒトに脳炎、性器ヘルペス、眼疾患、新生児ヘルペスといった多様な疾患を引き起こす医学上重要なウイルスの一つである。関連する医療費はアメリカ合衆国で年間30億ドルと試算されるなど、公衆衛生上大きな問題となっており生体内におけるHSVの病態をより深く理解する必要があると考えられる。伝統的にウイルス学では、感染細胞から培養液に放出されたウイルスを“ウイルス液”として実験に用いてきた。HSVの場合、このcell freeのウイルスによって引き起こされる感染とは全く異なる感染様式として、ウイルス粒子が細胞外に放出されず直接隣の細胞に感染する方法(細胞間伝播)が存在することが知られている。HSVの場合、生体内においてはほとんどcell freeのウイルスが検出されず、主に細胞間伝播していると考えられている。細胞間伝播は、薬剤や抗体のアクセスに抵抗するため、抗ウイルス戦略上無視できない。このように細胞間伝播の重要性は明らかである一方で、cell freeのウイルスによる感染と比較して、その複雑さからあまり研究はされていない。HSVがコードするgEが細胞間伝播に必要であるが、その具体的な意義は不明である。 これまでの研究から、細胞間伝播と細胞内のウイルス粒子形成・輸送との密接な関係が明らかとなっている。令和1年度は、特にウイルス粒子の核内から細胞質への輸送に注目した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核内でゲノム複製を行うHSVは、核内でゲノムを内包したカプシドを形成する。このカプシドは、核内膜から一旦“出芽”し、核膜間にエンベロープに包まれた小胞を形成する。この小胞は、核外膜と融合することで、核内のカプシドは細胞質に至ることができる。本研究では、この時に必要なウイルス因子に変異を導入することで、核内膜の膜変性およびカプシドの小胞への取り込みがウイルス増殖や細胞間感染に重要な役割を担っていることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
HSVによる細胞間伝播の分子機構を解明するため、これまで明らかにした細胞内シグナルと、ウイルス粒子輸送との関係を詳細に解析し、当該シグナルの下流で、HSVウイルス粒子の細胞内輸送や細胞内小胞の膜融合に影響を与える実行因子の探索を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は、2019年8月より東京大学医科学研究所より神戸大学に異動している。移動に伴い、研究計画上必要な遺伝子組換え実験は、2019年12月に神戸大学から承認された。このため、研究計画が遅延する結果となった。令和2年度は、遺伝子組換え実験を継続し、引き続き、HSVと細胞間伝播との関係を明らかにすることを目指す。
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