本研究では、(1)HIV-1潜伏感染制御メカニズムに関わる宿主側要因の理解を深めること、(2)(1)で明らかにした宿主側要因を制御する方法の基盤確立、を目的とし、独自に樹立した潜伏感染モデル細胞株を用いた機能遺伝子発現抑制ライブラリー細胞群を構築し、潜伏感染制御宿主因子群の網羅的探索・同定作業を進めている。令和元年度は前年度までに同定した潜伏感染制御宿主候補因子の中で、酵素活性を有する宿主因子1種についてさらに詳細な解析を進めた。その結果、(i)この宿主因子の酵素活性がHIV-1プロウイルスの転写活性を抑制するのに必須であること、(ii)この宿主因子は、宿主由来の転写因子による転写活性制御に影響を及ぼしていないこと、(iii)この宿主因子は、細胞核内において転写抑制複合体と相互作用していること、(iv)この宿主因子は、様々な潜伏感染モデル細胞に共通して転写抑制活性を有すること、等を明らかにした。これらのことは、前年度までに明らかにしたこの宿主因子のHIV-1 Tatタンパク質によるHIV-1転写促進メカニズムへの特異的寄与をより明確に示している。また同じく前年度までに見出したこの宿主因子機能阻害活性を有する低分子化合物は、宿主転写因子の活性制御に影響を及ぼさないで、HIV-1転写活性制御に特異的に作用することも明らかにした。このことは、従来の再活性化誘導剤の欠点であるHIV-1再活性化に対する特異性の低さを大幅に改善するための創薬標的を明らかにするだけでなく、具体的なシーズ化合物および類似化合物を提示することが可能となり、HIV治癒戦略の大きな進展に寄与することが考えられる。
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