本研究では、“HIVはその遺伝子産物であるNefがそのミリストイル基によって、本来は感染宿主細胞(T細胞)が使用している弱い相互作用に介在して効果的に細胞機能を停止している”、という申請者の研究に基づく仮説と、独自の抗体ライブラリー技術を用いて、NefがT細胞の機能を停止するのを阻止することによる細胞機能の回復法を開発することを目的としている。そのために、ふたつの抗体(抗ミリストイル基抗体、抗HIV-Nef抗体)を用いてAIDSの治療薬のプロトタイプになるダイアボディ(2重特異性抗体)を作製した。 まず、抗体ライブラリーを用いて、抗HIV-Nef抗体(clone m342)と、抗ミリストイル基抗体(clone r119)を開発した。また、その過程で、抗原に結合するだけで発光する抗体(Q-body)を開発した。 m342の抗原への結合力をSPR法で調べて、1.52×10^(-8)Mであることが分かった。また、ウエスタンブロッティング法により高い特異性を有することも確認した。さらに、そのエピトープ(抗原上の抗体に認識される部位)は、後述するm342で標的としている部位とは異なることを確認した。 次にr119の抗原への結合力をELISAで調べて、3.03×10^(-7)Mであることが分かった。さらに、複数のミリストイル化タンパク質を用いて、r119のミリストイル基認識の特異性を確認した。 これら二つの抗体を、抗体遺伝子が得られるという抗体ライブラリーの特性を活かして、遺伝子工学的に連結し、ダイアボディを作成した。 本研究で証明するコンセプトは病原因子(ミリストイル化タンパク質)の分子機能そのものではなく、細胞内局在を制御することによる疾患治療に関するものであり、AIDSに限らず、分子機能が未知の病原因子が関連する疾病治療の新たな戦略になりえるものである。
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