研究課題
前年度に引き続き、C型肝炎ウイルス(HCV)の増殖に及ぼす細胞内アネキシン分子の機能解析を実施した。その結果、特にアネキシン5の発現抑制において、HCVの増殖が顕著に亢進されることが再確認された。これらの結果は、細胞内のウイルス抗原やウイルスRNAの発現に加え、上清中のウイルス力価、HCV複製を指標にしたレポーター活性及びコロニーフォーメーションアッセイなど、様々な実験指標においても同様の結果が確認された。また、アネキシン5の発現抑制細胞では、HCVの感染に必須なCLDN1やOCLNなどの発現が低下しており、また正常な細胞内局在を示さなかったことが確認された。同様に、HCV感染やHCV持続複製細胞(レプリコン)では、CLDN1やOCLNの正常な局在分布は認められなかった。CLDN1やOCLNは、HCVの初期感染に必須の細胞内因子であり、また細胞間極性を形成する分子としても知られている。興味深いことに、インターフェロンやDAA(ダクラタスビル)製剤等でHCVを一過的に排除しても、CLDN1やOCLNの早期の発現及び正常な局在分布の回復は認められなかった。この結果に対しては、現在臨床的に問題となっている、ウイルス排除後の肝機能不全の発症に、上記の細胞間極性の機能不全の持続が関与している可能性が示唆される。HCV感染による、細胞間極性分子の恒常性維持の破綻に関与する分子として、細胞内プロテインキナーゼ C (PKC)分子に着目し、幾つかの特異的なアイソフォームが上記の現象に関与している可能性を見出した。今後、種々のPKC阻害剤等を用いて、HCV増殖や細胞間極性分子の発現及び機能回復等の実験を検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
昨年度に得られた結果を様々な実験指標で確認することができた。加えて、HCV感染による細胞間極性の破綻機構に関わる細胞内因子として、プロテインキナーゼ C (PKC)分子を同定できた。PKC分子は多様なアイソフォームが存在することが報告されているが、これまでに本研究の結果に関わる幾つかの特定のアイソフォーム分子を同定できており、今後速やかに特異的阻害剤等を用いた実験に着手できる状況にある。また、幾つかのHCV genotypes(1a, 2a, 3a, 4a,及び5a)の遺伝子及びレプリコン細胞を入手できたため、今後、上記の結果に対するHCV genotypes間による相違も検討する予定である。このような理由から、概ね順調に計画が進行しているものと思われる。
基本的には、当初の研究計画に沿って遂行する予定である。今年度の研究成果で最も興味深いのは、肝炎ウイルス排除後の肝機能不全の発症に関わる要因として、HCV感染による細胞間極性の機能不全の関与の可能性が示唆されたことにある。この結果については、今後、新たにシングルセル解析やエピゲノム解析を用いた詳細な実験が必要になってくると思われる。また、臨床検体(肝生検)を用いた解析も実施したいと考えているが、この件に関しては現在、共同研究者の新たな参画及びその必要性について慎重に考えている。
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