研究課題/領域番号 |
17K08860
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
野間口 雅子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 教授 (80452647)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | HIV-1 / Vif / Vpr / 遺伝子発現 / 選択的スプライシング / ウイルス複製 / 変異・適応 |
研究実績の概要 |
HIV-1の遺伝子発現は厳密に制御された過程であり、ウイルス複製に強く影響を及ぼす。申請者はこれまでに、HIV-1のスプライシングアクセプター1(SA1)およびドナー2(SD2)の周辺領域(SA1D2proxと名付けた)において認められる「自然に存在する1塩基置換(nsSNP)」により、vif mRNA/タンパク質発現量が変動することを見出した。また、Vif発現量とVpr発現量とが逆相関することも明らかにした。本年度は、SA1D2prox内nsSNPによるVif/Vpr発現量変動のメカニズムを解析することを目的とした。 HIV-1ゲノム上には、少なくとも4つのSD、7つのSAが存在する。Vif/Vpr発現量変動のメカニズムを解析しやすくするため、ミニゲノムの作製に取り組んだ。以前、Vif発現用ミニゲノム(LTR-gag/pol-vif-RRE)を作製したが、ウイルスクローンを用いて明らかにしたSA1D2prox内nsSNPによるVif発現量変動を反映しなかった。そこで、今回は、3種類のミニゲノムを作製しこれまでに得られた結果を反映するか否か検証した。3種類のミニゲノムとも共通してSD1、SA1D2proxと全長vif配列を含むが、vifの下流にルシフェラーゼ遺伝子、短いvpr配列あるいは全長vpr配列を持つ点で異なる。後者の全長vpr配列を持つミニゲノムからのVif発現は検出できなかった。一方、前者2種類のミニゲノムではこれまでに得られたSA1D2prox内nsSNPによるVif発現量変動が観察されたが、その全体的な発現量はミニゲノムの種類により異なり、vif下流にルシフェラーゼ遺伝子を持つミニゲノムで最も効率良くVifが発現した。これらの結果から、vif-mRNA産生レベルがvif上流のSA1D2prox配列のみならず、vif下流の配列にも制御されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の本年度の実験計画では、ミニゲノムを作製後、SA1D2prox内nsSNPによるVif発現量変動に関与する宿主因子の同定を進めることにしていた。しかし、ミニゲノムの種類(配列)により全体的なVif発現量が変化してくることから、ミニゲノム作製を慎重に進めた。このことは、上述の通り、SA1D2proxやvif配列以外の配列、特にvpr配列が全体的なvif発現量を負に制御することを示唆しており、興味深い結果が得られたと考えている。加えて、現在、ミニゲノムを用いてSD1/SA1/SD2/SA2のスプライシング効率の変化等を解析している。これまでにVif発現量を低下、増加あるいは過剰発現させるSA1D2prox内nsSNPを同定していたため、これらのnsSNPがミニゲノムでのスプライシング効率に及ぼす影響を解析した。その結果、SA1D2prox内で異なるnsSNPであっても、Vif発現量の変動(低下、増加、過剰発現)に応じて一定のスプライシングパターンが認められ、Vif発現量の変動が主にnsSNPによるスプライシング効率変化に依存していることが示唆された。当初の計画では、nsSNPによるVif発現量変動がスプライシングへの影響以外の要因(mRNA安定性やmicroRNAやRNA decayといったRNA代謝)により起こる可能性も視野に入れ検討することにしていた。しかし、ミニゲノムを用いた解析により、Vif発現量の変動はスプライシング効率の変化が主たる要因であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
SA1D2prox内nsSNPによるVif発現量の変動を反映するミニゲノムを構築できた。この構築過程で、vpr配列もVif発現量に影響を及ぼすこと、また、nsSNPによるVif発現量変動が主としてスプライシング効率の変化により起こること、が明らかとなった。今後は、(1)Vif/Vpr発現量を変動させる配列、および、(2)nsSNPによるスプライシング効率変化のメカニズム、の解析に注力する。 (1)の配列同定に関しては、これまでに、Vif発現を低下させるnsSNPを持つウイルスの馴化やHIV-1シークエンスデータベースを用いたnsSNPの探索を進めてきた。馴化型ウイルスクローンで認められる増殖促進変異にはVif発現量を一定レベルにまで回復させるものがあり、これらの変異によるスプライシングへの影響等の解析を進めていく。(2)のメカニズム解析については、スプライシングには、多くの宿主因子が関与するため、これらの因子同定が必須である。nsSNPを持つミニゲノムを利用し、RNAプルダウンアッセイ等を行い因子の同定を目指す。 さらに、上述のように、全長vpr配列を持つミニゲノムはVif発現が検出不能であった。スプライシングパターンを解析した結果、他の2種類のミニゲノムで観察されるパターンとは全く異なることが分かった。この結果は、vpr配列内のSA3がミニゲノムに存在することで、他のスプライシング部位の効率が変化することを強く示唆した。今後、vpr配列内のSA3近傍のnsSNPを探索し、Vif/Vpr発現やスプライシング効率変化を解析する。SA3はHIV-1の転写に重要なtat mRNA産生に関与し、ウイルス複製への影響も予測されるため、ウイルス学的解析も進める。これらの実験を遂行し、HIV-1 mRNA産生に関わるスプライシング調節機構を明らかにする。
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