HIV-1の選択的スプライシングはmRNA/タンパク質産生に影響するため、効率的なウイルス複製に重要な過程である。我々は、HIV-1ゲノム上に存在するスプライシングアクセプター(SA)1とスプライシングドナー(SD)2近傍領域(SA1D2prox)が、HIV-1複製に必須のウイルスタンパク質Vifの発現量調節領域であることを報告した。本研究では、HIV-1ゲノムにおいて、ウイルスのタンパク質(特に、VifとVpr)発現量やウイルス複製能を調節する新たな領域の同定を目指した。 HIV-1はサブタイプ間でアミノ酸配列やVif活性が異なる。Vifコード領域内には、vpr mRNA産生に関わるSA2/SD3が存在する。我々は、SA1D2prox研究からVifとVprの発現量とが逆相関することも見出している。これらより、vifコード領域の塩基配列が、Vif/Vpr発現量に影響し得ると考えた。サブタイプB(NL4-3)とサブタイプC(Indie C)由来のSA1D2proxおよびvifの配列を用いて、NL4-3をバックボーンとして種々のキメラ型のプロウイルスクローンを作製した。その結果、IndieC由来のSA1D2proxやvifの配列を持つウイルスにおいて、Vif発現量の低下とVpr発現量の増加が認められた。特にvifの配列がIndie C由来になると、より顕著にVif発現量が低下した。そこで、vif配列内のキメラ型プロウイルスクローンを種々作製し、vif配列内においてどの領域がVif発現量の低下に寄与するのかを調べた。Vif発現量が低下するクローンの共通点は、SA2とSD3を含むVifのC末端側がIndieC由来となることであった。以上の結果から、SA1D2proxに加えて、SA2とSD3周辺領域の塩基配列もVif/Vpr発現量を変動させる領域であることが示唆された。
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